Calme

□椿(赤花)
2ページ/3ページ


「え、えっと……」
「椿の蕾を差し出して『この椿が咲いた頃』って言うんだよ」



そう言って、さっき拾った椿の花を私の目の前に差し出した。
さっきまでの様に反応出来なくてアタフタする私を、准くんはもう笑いもせず芝居をしているかのような面持ちで見つめる。



「い、いやー、やっぱ准くんそういうの様になるよね!」



どもりながらも必死で誤魔化してみても、准くんの態度は変わらない。



「じゅ、准くん?」
「花は咲いたよ」
「え?」
「椿が咲いたら会えるんでしょ?」
「え? う……うん?」
「イチカならどうする?」
「え? 私!?」



准くんが言ってる事も伝えたい事もわからないし、何やら恥ずかしくなってきてもうホントどうしていいのかわからない。
夕陽に照らされて熱いのか、今の状況に熱いのか、何故か顔が赤くなっているのが自分でもわかる。



「あ、えっと……」
「考えた事ない?」
「ない……ですね」
「じゃあ、考えて」
「え? 今?」
「そう、今。」



何でこんなんなったんだっけ?
さっきまで全然普通に喋ってたはずなのに。
何で私恥ずかしくなってるのかな?
この気持ちは何なんだろう?



「じゅ、准くん椿姫あんまり知らないって言わなかったっけ?」
「知らないとは言ってないよ」
「じゃあ、えっと、あのー……」
「とりあえず、イチカはこの椿受け取ってみて」
「へ?」



准くんの考えなんてこれっぽっちもわかってないのに、准くんの言われるがまま椿を受け取った。
さっき准くんが拾った落ちた花のはずなのに、真っ赤な椿が眩しく見える。



「え、えっと、准くんはどうしてここにいるんだっけ?」



そう聞くと、准くんは優しく微笑んだ。
あの、私今かなりドキドキしてるんですけど。
あれ? 准くんってこんなだったっけ?
私ってこんなんだったっけ?



「あっ」
「え?」



准くんの声に反応すると同時に、枝に咲いていた椿の花が一輪、落ちる瞬間を見た。



「落ちた」
「……うん、落ちたね」





*****

「で、落ちたんだ」
「……そう、落ちたのです」



准くんとのなりそめを話していた私は、あの時の気持ちを思い出してドキドキしていた。
話を聞いていたお花屋さんは、いつもと変わらない笑顔を見せている。
准くんとの待ち合わせで、Calmeのオーナー(お花屋さん)が時間潰しに付き合ってくれていた。



「彼、テクニシャンね」
「え?」
「それもかなり」
「え?」
「イチカちゃん、やりこまれない様に気をつけてね」
「え!?」



話を聞いただけで准くんの人となりがわかったのか、お花屋さんはそんな事を言う。
お花屋さんの言った意味が何となくわかりつつも、准くんには到底かないそうにもない。
そんな事を思いながら、准くんの到着を待つ私なのでした。






ー おわり

→ アトガキ


次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ