Calme
□布袋葵
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小さな金魚鉢の中で、花がユラユラと浮いている。
それを飽きる事なく眺めていた。
「はい、ココアお待たせ」
花屋 兼 カフェの女店主が、オーダーしたココアを持って来てくれた。
「わーい、いい匂い」
「彩ちゃんはココア本当に好きね」
「だって、ここのココア、マシュマロ入ってて可愛いし、美味しいし、クセになる」
お気に入りのカフェで、お気に入りの飲み物を頼む、幸せな時間。
のはずなのに、今日の私の心は、目の前に飾られている花の様にユラユラユラユラ。
「お花屋さん、このお花可愛いね」
「それ? 布袋葵っていうのよ」
「へー」
金魚鉢の底には色とりどりのビー玉が敷き詰められていて、キラキラしてる。
その上を布袋葵の淡紫色の花が、涼しげに水に浮いていて。
「気になる?」
「こんな風に飾ってあると、つい目がいっちゃうよ」
「お店来てから、ずっと見てたものね」
「うん……」
花の事は良くわかんない。
お花屋さんに聞くまで、目の前の花の名前すら初めて耳にする。
のに、とても気になる。
花がユラユラ、私の心もユラユラ。
ユラユラ、ユラユラ……。
「どうしたの?」
「えー?」
「いつもの彩ちゃんらしい元気が無いわよ」
「……だよねー……」
お花屋さんが優しく微笑む。
いつもだったら、「あのね」って私の話聞いて貰うのに、何だか今日は言葉が出てこなくてココアを啜って誤魔化した。
「今日の彩ちゃんは」
「うん?」
「布袋葵そのものの様ね」
「え?」
お花屋さんは謎の言葉を残して、店の奥へと行ってしまった。
花そのもの?
どういう意味だろう?
また、花に目をやる。
ユラユラ、ユラユラ。
今の私はユラユラしてるけど、浮いてるというより沈みそう。
「ハァー……どうするかなぁ……」
テーブルにうつ伏せると、自分の顔が金魚鉢に映り込む。
水が揺れて、映った顔が歪む。
そのまま思考は、つい先日の出来事に移る。
嫌でも鮮明に思い出せる、思ってもみなかった出来事。
*******
「俺、彩と付き合いたいんだけど」
「はい?」
あまりにも唐突に飛び出た言葉に、まぬけ顔を披露してしまう私。
そんな私の顔を見ても顔色1つ変えないで、准くんはまた言葉にする。
「俺と付き合って欲しいんだけど」
「あ、あのー……」
「何?」
「何で?」
わかってる。
まぬけ顔の次にはまぬけな問いを返した私に、准くんは眉間にシワを寄せる。
いやー、わかってるさ。
どんなアホ顔見せようと、アホな事言おうと、キミからふざけた笑いが返ってこない事くらい。
でも、こっちは本当にビックリしてるんだから、その辺理解して欲しい。
そんな怖い顔しないでさぁ。