Calme

□布袋葵
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「何か気が抜けた」
「え?」
「結構気合い入れて来たんだけど」



准くんが気合い?

何だか聞き慣れないというか似合わないというか、そんな言葉を吐く准くんをマジマジと見てしまう。



「俺だって、ずっと緊張してんだけど」
「え?」
「彩はまだまだ俺の事わかってないね」



強気な発言にも聞こえるけど、苦笑いを浮かべる准くん。

私わかってない?
いや、まぁ、准くんの考えてる事なんて殆どわかってないけどさ。



「俺だって、ずっと悩んだんだよ。このまま変わらず友達の方がいいのかなーって」
「えぇ?」
「彩が俺の事友達以上に見てない事もわかってたし」
「……………」
「だけど……」
「だ、けど?」



ヤベッ! 思わず聞き返しちゃった。

真面目に語る准くんの言葉が詰まって、先を促すように言葉をついてしまって、口を両手で押さえてみる。

これじゃ私、准くんの気持ち知りたいみたいじゃない。
……いや、知りたいのか。
あれ? 知っといていいんだよね?



「友達のままじゃ、彩に触れられないじゃん」
「へ?」



まさかそんな言葉が返ってくるとは思ってなくて、またまぬけ顔を披露してしまう私。



「他の男と遊ぶとか見たり聞いたりするの、もう嫌だし」
「え? あの……」
「だからね」
「へ?」
「告白したんだよ」



この間も似たような事言われたはずなのに、具体的な感情を口にする准くんに、不覚にも赤面してしまう自分がいた。



「あ、赤くなった」
「!!」
「ちょっとは意識してくれた?」
「!?」



これは、完全に准くんのペースにはめられているのでは!?
そう思っても、言葉が出てこなくて。



「友達もいいかもしれないけど、付き合ったらもっといいかもよ?」



もうダメ!

余裕の笑み(に見える)を溢す准くんから目を逸らし、金魚鉢の方へ目をやる。
金魚鉢に真っ赤な顔した自分が映る。
花は相変わらずユラユラ浮いている。

居心地の良い友達がいなくなるのは淋しい。
でも、彼氏になるのなら……いいのか?
え? どうなの?

自分の気持ちがわからなくって、赤面したまま花を眺めていた。
そんな私を准くんは穏やかに見つめている。



「おかわりはいかが?」
「お、お花屋さん……」



会話が一端途切れた丁度その時、お花屋さんがコーヒーを持って現れた。



「あの」
「はい?」
「さっき言った意味って」
「さっき?」
「彩が布袋葵だって」
「あぁ」



准くんは相変わらず淡々とお花屋さんに疑問を聞く。

今聞く事?

私はまだ言葉を発する事が出来なくて。
お花屋さんは笑顔で応える。



「彩ちゃん、揺れてるようだったから」
「揺れてる?」
「そう、“揺れる心”。布袋葵の花言葉」



ゲッ! そうなの!?

そんな私のアタフタする気持ちを知ってか知らずか。

それを聞いた准くんが私に向かって笑いかけたのは、言うまでもない。






ー おわり

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