Calme

□布袋葵
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居心地の良い空気。
気楽な雰囲気。
何を望む訳でもなく、お互いがお互いの関係をよく理解していて、今まで成り立っていたはず。
少なくとも私はそう思ってる。
必要な関係、男友達。
その友達が……。



「ここだと思った」
「え……?」



頭の上から声がして見てみると、そこにはいつもの態度の准くんが立っていた。



「え? 准くん!?」
「彩 ここのカフェ好きって言ってたから、いるかなって思って」



驚いている私をよそに、准くんは同じテーブルに腰を下ろす。



「何 飲んでんの?」
「え? これ? ココア……だけど」



准くんが柔らかな笑みを溢す。
それを見て、ついついドキッとしてしまう自分。

ゲッ……。何ドキドキしてんのよ、私!
准くんもわざわざそんな笑顔向けないでよね!
……あー、もう! 何だかなぁ……。



「あら? 彩ちゃんのお友達?」
「あ、お花屋さん」
「何 飲みます?」
「あー、コーヒーを。後、ココアおかわり」



准くんは自分の飲み物と、空になった私のカップを指差して頼んだ。

という事は、私この場から逃げられないという事か……。



「今の人、美人だね」
「あぁ、ここのオーナーだよ」
「へぇ。でも、“お花屋さん”?」
「うん、そう呼んでって」
「面白い人」
「うん」



いつものように淡々とした会話。
こんなんなんだから今更関係変える事なくない?と思っても、何故か言葉に出来なくて。
目の前の花にまた目をやる。
相変わらず涼しげにユラユラ浮いてる布袋葵。



「何? これ」
「布袋葵って言うんだって」
「へー」
「可愛いなって思って」
「うん」



准くんも小さな金魚鉢の中で浮いてる花に目をやる。
少し見つめてから、小さく息を吐き出してから私の方を見た。
真剣な瞳を向けられて、またドキッとする私。



「考えてくれた?」
「いやー、考えては、いるけど……さ」
「あんまズルズルと長引かせても意味ないし」



ヤバイ、ヤバイ!
これはもう……何だかヤバイ!

心の中でパニクっていると、タイミング良いのか悪いのかお花屋さんが飲み物を運んできた。
ここはもうお花屋さんに話しかけて、この雰囲気から逃げちゃおう!なんて、卑怯な事を考えながらお花屋さんを見ると。
いつも以上の笑顔を溢していて。



「今日の彩ちゃん、本当に布袋葵なのね」
「え?」
「ウフフッ。ごゆっくり」



だから、えーっ!?
なーに、その意味あり気な言い方!!

助けてもらおうとしてたのに、お花屋さんはあっという間に店の奥へと消えちゃったし。
准くんは訳わかんないとポカンとしてるし。
あ、准くんに関してはそれでいいんだけどさ。
さっきの勢いのままじゃ、どんな会話になるかわかんなくてヤバかったし。



「どういう意味?」
「わかんない」
「不思議な人なんだね」
「うん」



ホントに准くんの勢いみたいなものが抜けた感じがして、内心ホッとする。


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