Calme
□サンビタリア
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「こんちわ」
「あら、坂本さん いらっしゃい」
たまに使う花屋に久々入り、女店主に挨拶を交わす。
ここは花屋でもあり、カフェもやっていて、あちこちから甘い香りが漂っている。
「コーヒー豆替えたの。久々飲んでって下さいな」
「じゃあ、お言葉に甘えて」
「座って待ってて」
明るい店内でテラスまであるというのに、この店はいつ来ても不思議な空間に感じる。
マスター(何度聞いても名前を教えてくれなくて、本人がお花屋さんかマスターって呼んでと言うから)自身不思議オーラ全開だからだろうか。
「何か悩み事?」
「え!?」
コーヒーを運んで来たマスターが、俺を見て聞いてくる。
マスターは……女の勘とかそんなんじゃ収まりきらない程鋭過ぎる人だったりする。
なんていうか、この世のあらゆる出来事全て見抜けますって言ったら、俺は素直に信じちゃうかもしれない。
そんな人だから、今日はあえてここに来たのかもしれない。
「とりあえずコーヒー飲んで、乱れてる心落ち着かせてみなさいな」
何も言わなくても見抜かれちゃってるものだから、大人しくマスターに従う俺。
マスターの淹れてくれたコーヒーは、美味しいだけじゃなく、ざわついていた気持ちを静めてもくれた。
「さて、今日の目的は?」
「えっとですね……」
言わなくてもわかってるくせに、肝心な事は本人の口から言わせるマスター。
それがわかってるから、どうしようもなく恥ずかしくてスラスラと言葉を繋げられない。
「あの……」
「はい」
「花……をですね」
「はい」
「贈ろうかと思ってるんですよ」
「それは素敵ですね」
そういうマスターは素敵な笑顔を俺に向けてくる。
俺はもうかなり恥ずかしくて、次の言葉を繋げられないでいた。
「どんな方なの?」
「え?」
「花を贈る女性は」
「えっと……ですね……」
マスターに聞かれ答えようとすると、マスターは俺の傍から離れた。
マスターを知らない人だったら、話聞く気あるの?と思うかもしれないけど、離れてもちゃんと話は聞いている。
それがマスターだ。
マスターは多分、話を聞きながら花を選んでるんだと思う。
それに、俺としても傍に居ない方が今は話しやすい。
「もうずっと、俺の片想いで……。
彼女とは腐れ縁というか友達というか、そんな関係がもう何年も続いてるんです。
……彼女は、明るくて、素直で、……淋しがり屋で。
俺はいつも気持ちを伝えるタイミング逃してて。
彼女はいつだって、俺じゃない男を選んできたから。
別れると、決まって俺に連絡してくるくせに……、次の連絡は新しい男が出来た報告で……。
彼女が幸せならって、何度も涙を飲んできたけど……。
同じ事の繰り返しをずっと傍で見てきて、いい加減……俺……」