Sweet☆Motion
□第26話
2ページ/4ページ
『ちゃんと言えたよ。‥‥やっと‥‥言えた』
彩の声はしっかりと私の耳に届き、その声は穏やかで晴れ渡った響きがした。
ハロウィンパーティーがあったあの日から、私はあえて彩への連絡を控えていた。
一週間が経った頃、彩から電話がきた。
『何だか嬉しくて、でも切なくて。ちゃんと整理するのに、やっぱり時間かかっちゃったけど』
受話器越しの彩は、はにかんだ笑い声を聞かせる。でもちょっと、涙声。
私達がメンバーと知り合って、もうすぐ1年が経とうとしていた。
1年越しの片想い、長いよね‥‥。
今日までに、色んな事があったもんね。
『剛くん‥‥優しかったよ。雅ちゃんありがとね』
「私は何も‥‥」
『あの時雅ちゃんが言ってくれなかったら、私は何も出来なかったと思うの。言うチャンスを与えてくれて、ありがとう』
改まってお礼を言われると恥ずかしくて何も言えなくなった。
『雅ちゃん‥‥は?』
「うん?」
『あの日、昌兄に送って貰ったんでしょ?』
「あー‥‥うん。でも、昌何も触れてこなかったから。あの日は‥‥何も‥‥。私、逃げてるよね? ダメだね、こんなんじゃ! 全然変わってないじゃんね」
『そんなつもりで言ったんじゃないの! ごめん! 雅ちゃん頑張ってるの分かってるよ。昌兄も分かってるんじゃないかな? 焦らず、ゆっくり‥‥だよ』
「‥‥ありがと」
『フフッ。お礼の言い合いになってる』
昔と‥‥変わらない彩との関係に、私はただただ安心するばかり。
『私も‥‥まだ健ちゃんとちゃんと話してないし‥‥』
彩の声には迷いがあった。
地元に帰って来てから、彩は‥‥健ちゃんと話するのが、一番怖いと言っていた。
あそこまで想ってくれる人に、何て言っていいのか今だに分からない、と。
うん‥‥彩の気持ち、凄く良く分かるよ。
「彩‥‥」
「なぁに?」
「あのね‥‥。私‥‥再来週、剛と会ってくるよ」
言い出しずらかった言葉を必死に出した。
剛との約束。
彩には伝えなくちゃって‥‥思ってた。
『‥‥うん。報告してくれてありがとう』
少し間を取ってから彩は穏やかに言った。
ありがとう‥‥
その言葉は私が言う言葉だよ。
彩、ありがとう。
電話を切った後ソファに腰を下ろしていた私は、そのままの態勢で天井を仰ぐ。
私も本当は、まだ剛に何を言えばいいのか
何を伝えればいいのか
分からないでいた。
答えが見つからないまま無情にも時だけが過ぎていくのを私は知っていた。