気まずくギスギスしてる訳でもなく、かといって穏やかな訳でもなく。
「健ちゃんが凄く心配してたよ」
雅ちゃんが不意に話し出した。
「‥‥何かちょっと1人になりたくって、こっち来てから携帯切ってたんだ」
「そっか‥‥」
それから少し間を取るように雅ちゃんはカップに手を伸ばし、ゆっくりお茶を飲む。
「私‥‥何も気づいてなかったんだって、改めて思ったよ」
雅ちゃんはゆっくりと話し出す。何か覚悟を決めた様に、ゆっくりと。
「彩、ごめんね」
雅ちゃんが謝ると、私の心は少しざわついた。
謝りの言葉を聞きたくないだけなのか、私は元々、雅ちゃんに何を求めてたんだろう。
「彩の気持ちにも気づいてあげれなくて、ごめんね」
最初から分かりきってた筈なのに‥‥。
私は何も言えず、ただ雅ちゃんの話を聞く。
「いつも自分の事でいっぱいいっぱいで、私随分と周りの人達を傷つけてきたんじゃないかって思うようになった。皆の気持ちも、自分自身の気持ちも、分かりたくなくて分からないフリして‥‥。気づくのが怖かった。自分の気持ち、認めるのも怖くて‥‥。認めてしまったら、何かが壊れてしまいそうで、ずっと怖かった」
雅ちゃんが、けしかける事なく自分の気持ちをこうまで話すのは初めてだよね?
雅ちゃん‥‥
「だからって逃げててもしょうがないんだって‥‥。だから、彩に聞いて貰おうと思って、ここに来た。この間のあれはただの喧嘩でしょ? 喧嘩なら‥‥私達仲直り出来るよね? 彩、私の話を聞いて?」
「‥‥雅ちゃん」
「ずっと考えてたよ。彩があの日、初めて自分の気持ちを私にぶつけた時、辛かったんでしょ? どこにもぶつけられなかった気持ち抱えて、痛かったんでしょ? 私を‥‥嫌いになった訳ではないでしょう?」
雅ちゃんは、すがる様に私を見ながら言う。
初めて見る表情、初めて聞く気持ち
全部、全部、私が悪いんだよ‥‥。
私ね、雅ちゃん私ね、本当は怖かったんだよ。
全て壊れてしまえって思ったのは、本当だった。だけど、違う気持ちもあったんだよ。
「自分の気持ち分かって欲しかったんでしょ? だから、私に言ってきたんでしょう? 私は‥‥そう思ってるよ。そう思っていいでしょ?」
雅ちゃん‥‥
「雅ちゃん‥‥。私はね、本当に剛くんが好きだったんだよ」
「うん」
「でも、剛くんは出会った頃から雅ちゃんしか見てなかった」
私達、自分の気持ち胸に秘め過ぎてたんだね。
「分かっていた筈なのに、私は少しでもいいから剛くんに見て欲しかった。どんなに頑張っても、剛くんは雅ちゃんの姿しか追わない。苦しくて‥‥」
「うん‥‥」
「いつまでも何も気づこうとしないで笑ってる雅ちゃんを見てるのは、自分自身悔しくて、辛くて、しょうがなかった。あんなにも想われているのに、私にはどうやっても手に入らないものを与えられているのに、自分の気持ちにさえ気づこうとしていなかった‥‥」