遊蝶華伝

洋と和
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アテナは目の前のフライパンを睨み付けていた。

「何でいい感じのきつね色にならないかなぁ…」

むしろ黒い物体になりつつあるオムライス。

「変な匂いするような…?気のせいか!う〜ん、気合い足りないのかな…オムライス〜ファイッ!!」

細かいところは気にしない。それが彼女の欠点であり長所なのだ。
今日はどうやら1年を担当する教師が休みらしく、調理室を1年と2年が合同で使用することになった。1年は先輩に気を遣ってか、空気が少し重い中…。

「ちょ!!とめなとめな!アテナ、あんた料理下手すぎ」
「へ?何が?」
「焦げてんの!それ」
「え…まじか!」

気楽な少女、夢兎城あてなは、慌ててフライパンを火から離す。すると、中のものが勢いよく宙を舞った。

「馬鹿!何やってんの」
「あ、ヤバい!」

バシッ!

「……っ」

オムライスがつぶれる音だろうか…。アテナが恐る恐るゆっくり目を開けると、皿を持った誰かの手が見えた。

「大丈夫ですか?」

お皿の上に、ちょこんと乗ったオムライス。心配する声の主が、アテナの作ったそれを上手くキャッチしていたのだ。

「無事だったのねあたしの愛情
料理!」
「いやいやいや愛情込めてんならもっと丁寧に扱えって!」

そんなアテナ達の口論を聞きながら、翡翠彪晃(ひすい ひゅうあき)が皿を差し出す。

「はい、どうぞ」
「ありがと。えっと、君は…」
「翡翠彪晃ていいます。先輩は?」
「夢兎城あてな。よろしくね」

彪晃は短い髪に穏やかな顔立ちの少年だった。性格も温厚なのだろう、笑顔を絶やさない。アテナから見て第一印象はかなりいいものだった。

「料理みたいな手作業は得意じゃない感じですか?」
「そうなの!親友のあたしでさえ、アテナの不器用ぶりにはいつもびっくりするんだから!」
「うっさいわ!」

親友のひやかしに顔を真っ赤にしながら叫ぶアテナ。

「ぷっ…あははは!」

彪晃が堪えきれないという様子で笑いだす。

「ちょっ!笑うなんてヒドイ」
「す、すみま…はははは!」

何が可笑しいのか、いつまでも笑いが止まらない。そんな無邪気な彼を見て、アテナは思いついたように訊いた。

「ねぇ、彪晃くん、…音楽室の窓側の1番後ろの席って誰座ってる?」
「え?…うちのクラスだったら僕ですけど」

やっぱり…てことは、もしかして…。

「机の落書きに返事書いたことある?」

「あれ!?もしかしてあれ書いたのアテナ先輩だったんですか?」
「うん」

アテナは確信した。この男の子が机の文通相手なんだ、きっと間違いない。

「貴女が相手だったんですね…。良かった」
「へ?」
「いえ!思った以上に可愛い人だったんで、びっくりしただけです」

顔を赤くさせながら呟く彼。その言葉に伝染するように、彼女も顔を赤くさせる。お互いの相手の正体に、思い出したかのように照れが込み上げた。

「ねぇ、何の話してんの?」

いまいち状況を掴めていない親友の言葉は、今のアテナの耳に届いていなかった。



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