遊蝶華伝

□転校生
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キーン コーン…

学校のチャイムが終わりを知らせる。放課後のホームルームが終わると、生徒達はたちまち騒がしくなる。

「アテナ!さ、帰ろう」
「あ〜ごめん、マキ、今日はちと用事が…」
「?」

アテナの慌てた様子に、親友のマキが何か閃いたような顔をした。

「ははぁ〜ん?あんた彪晃くんと帰るつもりだぁ?」
「ちちち違います」
「嘘。図星じゃん」
「………」

その通りだ。やはり親友には見通されている。

「彼、サッカー部だよねぇ。練習見てくの?」
「うーん…うん」
「そっ、じゃお邪魔虫は退散するとしますか」

マキの笑い方にちょっとだけ不満を感じつつ、2人は互いに別れを言い、それぞれ真逆の方向に歩いていく。




夕暮れになりカラスの鳴き声が聞こえ始めた頃。タオルを肩にかけた彪晃が、グラウンドに歩いて出てきた。

「じゃーなー、彪晃」
「おう」

部活仲間に手を振りながら、アテナがいる方へ歩いてくる。

「よっ、彪晃くん」
「アテナ先輩?」

思い切って声をかけてみるアテナ。

「うーん、なんとなく呼びづらいかも。ヒュウくんでOK?」
「あはは。ええ、何でもOKです。先
輩はどうしてここに?」
「あーいやぁ、せっかく偶然知り合ったんだし、もっと話したいと思って。駄目?」

正直に、もっと仲良くなりたいことをアピールすると、彼は照れたように笑って言った。

「全然いいっすよ。俺もアテナ先輩と、もっと仲良くしたいですし」
「本当?やった!じゃ友達になろうよ」
「友達って、俺達先輩後輩の仲なのに」
「友達に年の差なんて関係ナッシング!」

なんとも気軽な接し方に、彪晃も楽しそうに話す。夕暮れ時、お互い初めてできた異性の友達だった。
その日だけはオレンジ色に染まる空が、いっそう綺麗に目にうつった。




翌日。朝のホームルーム前の教室内。真っ先にアテナのもとへふっとんで来たのは、お約束、親友のマキである。

「ねんね!昨日どうだった?例の彼との放課後デートは」
「そんなんじゃないから。彼とは普通の友達だ、か、ら!」
「え、じゃ何もなかったの?何もしなかったんだ?なーんだ、つまんないの」
「あんたはどういう想像してんだか」
「告白も、手繋いだりもしてないわけ?」
「だからしてませんって!」

マキは楽しそうに笑いながら席に戻って行く。まったく、何が可笑しくて人をからかっているのか…。
呆れながらアテナも席についた。

「よし、皆、席につけー。急だが今日は転校生を紹介するぞ」

…?今の時期、急に?
何だか可笑しな事態ではないか。

「えー、しかも今回は2人だ。仲良くしてやれよ」

ざわざわ。さすがに珍しいこの状況に、教室がざわめく。

「紹介する。入ってこい」

ガラッ
勢いよく教室の扉が開いた。

「こちらが…」
「アヴェル・スピネルでス!こんな名前だけど一応国籍は中国。ばあチャンがイギリス人なんダ。みんなヨロシクー!」

教室内に衝撃が走る。入ってきたのは、ショッキングピンク色の髪を両サイド高い位置で結んだ、やんちゃな黒目の男の子だった。

「…元気がいいな。そうだな、スピネルは1番奥の席でどうだ?」
「ウーン…あ!!」
「…へ?」

気のせいだろうか。アテナは彼と目が合った気がする。彼はニッと笑うと、大声で先生に言った。

「オレ、あの子の隣がいいっス!」
「は、はぁ!?」

逃れようもない程明らかに、彼はアテナを指差す。

「な…何で?」

予想外続きで頭が痛くなってくる。

「夢兎城の隣か…」
「駄目っスか?」
「空いてるから構わないだろう。夢兎城、彼を手伝ってやるように」
「は
、はあ…」

流れ的に決定してしまったらしい。スキップしながらあっという間にアテナの隣に行くと、手を差し出しながらアヴェルが言った。

「ヨロシクネ!」
「こちらこそ。私は…」
「アテナチャンでショ?」

…え?

「うん、そうだよ。何でわかったの?」
「なんとナク」
「嘘!?」
「エヘヘ、本当は鞄の名前を見たからナンダ」
「びっくりしたぁ…」

そう言って息をつくアテナを、ニヤッと笑ってアヴェルが見ていたことに、彼女は気づいていなかった。



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