遊蝶華伝

洋と和
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近未来。日本。殺戮だらけと化した国。

「さあ、神経を集中して」

そう言って写真を差し出す彼女。情報屋の女が持ってきた、1枚の写真。それを見つめるのは1人の少年、名をリヴィン・ラピスラ・エンディー。

女が彼の額に触れると、ふっ、と彼はその場に崩れおちた。




『──…まえ…』

少年が目を開けた場所は薄暗い牢獄の中だった。すべてがセピア色に染まるこの場所は当然現実の世界ではない。
彼は、あらゆる未来を旅してきた。予知夢をみること、それが彼の能力であり、仕事である。ここもそう、彼の夢の中だ。

『気味の悪い女だ。死ぬ前だというのにこの落ち着きよう…』

影に覆われているのと視界がぼやけているせいでよく見えないが、男が喋っている。牢獄には若い女が捕らえられていた。華やかなデザインだったろうその服は、ぼろぼろに薄汚れている。茶の混じった黒い髪は乱れ、芯の強そうな目だけが真っ直ぐ前を見据えていた。

『…さぁ、早く終わらせよう。なるべく苦しまないようにしてあげる』

別の男がそう言って、彼女に銃を向けた…。

『…あれからずっと、貴方の笑顔を見てないわ。すべてはあの瞬間から
始まった。剣と刀の刃が交わり、洋と和が対立した、あの瞬間から』

ずっと黙っていた女がぽつりと呟く。

『そうだったかな。昔のことは忘れた。覚えてないんだ』
『………』

カチャリ。狙いを定めた男は引金に指をあてる。

『──バイバイ』

パァン!!


とある昼下がり、少年は1人の女が死ぬ夢を見た。




【 遊蝶花伝 】




夢兎城あてな(むとしろ あてな)は、音楽の授業のため階段をのぼっていた。
移動教室のためにわざわざ階段をのぼらなければならない。他の生徒はこれを面倒に思い、のろのろと歩みを進めている中で、アテナだけが階段を駆けのぼる勢いだった。

「こら、アテナ!転んでも知らないぞ」
「平気平気!」

途中、誰かにぶつかっても「あ、ごめん」と言って先を急ぐ。アテナには音楽室での楽しみがあった。

「おっ」

教室に入った彼女がまず見たのは机の上。そこには小さく控えめに文字が並んでいた。

ボクは1年だから 君は先輩なんだね なれなれしくしてすみませんでした先輩(`∇´ゞ

「あはは!ウケる」

きっかけは数ヶ月前。この席に座って落書きをしたら、いつの間にか誰かに付け足されていた。面白くなって返
事をしたり質問したりしているうちに、すっかり親しくなってしまったのだ。

「1年の子だったのか〜、ねぇ、どんな子だと思う?」
「はあ?あんた顔も知らない相手に何思い耽ってんのよ」
「いいじゃん別に。うーん顔は可愛い系かなかっこいい系かなぁ。部活は…きっとサッカー部だよ!」
「…根拠なくない?」

あはは、笑いながら教師が入ってくるまでずっと立ち話をしていた。

すべてが平和な日々であった、この時までは──



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