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□遠い青
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息を漏らせば、コックピットがやけに広く感じた。
操縦桿を右の人差し指でなぞる。
照明灯は点いていない。薄闇の中で、右の頬の引き攣る感覚がした。
操縦席に沈み込むようにして凭れる。
冷たくざらつく背中。

――フラッグにそっくりだ。

誰よりも高く空を駆った。
誰よりも澄んだ青を見た。
その代償に傷めた内蔵が、一つ呻くようにきりりと痛んだ。


「君色に染め上げた機体はどうだい、ミスター」


不意に通信が入った。
少しのノイズと共に飛び込んできたその声でさえも、まるであの頃を錯覚させるようだった。好奇の強い、だけども柔らかい声色。
その色も少し落ち着いたように感じるのは、彼が年を重ねたからか、それとも自身が年を重ねたからか。
恐らくは両者だな、と小さく笑えば、「ミスター?」と応答を求める訝しげな声が通信機から漏れた。


「ああ、……乗り心地は悪くない」
「そう。それならいいんだ」


最終調整を行うから降りてくれ、と通信機の向こうの彼が告げた。
返事をして、そうしてもう一度操縦桿を撫でる。
私の機体。
私だけの機体。
生きる証を、私を、世界を歪めた存在を超えるだけの力を有する機体。
超えるならば、何の代償も厭わない。
情けなく生き永らえ、惨めに恥を重ねてきた命だ。
“彼”を倒した上で散らすのならば、それは寧ろ本望だ。


「だから構わない」


口元が緩む。
G軽減の処置も安全装置も何も要らない。そんなものは要らない。
圧倒的な力。最強の剣とスピード。
それさえあればいい。
それさえあれば、何も要らないのだ。
イノベーターの傀儡と成り果てても、利用されているとしても、そんな身などくれてやる。
この身の全ては彼の為に。
でなければ何の為に、彼の打ち砕いた屍らを踏み躙り、もがれた羽根では届きもしない彼に手を伸ばし続けたのか。


「そうだろう。グラハム・エーカー」


一つ笑って目を伏せる。
見えた筈の青が、何処までも遠く思えた。










○21話の直後に書いたのに、マスラオの話(^q^)???
……ましゅらおたんかわいいよましゅらおたん!

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