TALES OF…short story

□サヨナラ、サヨナラ
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『今からお前はシンク、だ』

ヴァンから貰った名前はずっとボクの中で輝いていた。

だけど、もうそんなことはどうでもよくなった。

・・・ボクは・・・・・・空っぽなんだから。


―――エルドランド。

静かに吹く風と磯の香りが心地よかった。

だが、それも一瞬で終わる。

「いけません!罠です!!」

遠くからレプリカたちの慌てふためく声が聞こえる。

(フン・・・レプリカ、か。僕もそうじゃないか)

導師イオンのレプリカとして生まれた僕。

皆、ボクのように望まれず、死んでいった。

だが、七番目のイオンだけは違った。

甘ちゃんで鬱陶しくて僕を悲しい目で見つめてくる。

ボクと唯一ちがう所は仲間にも恵まれそして幸せだったってこと。

一歩、また一歩とレプリカルークたちの元へと。

ゆっくり、踏みしめるように。

(君たちには期待してるんだよ?・・・ボクにお似合いの最後ってヤツを)

笑っていた。死ぬことを覚悟して尚笑っていた。

それでもどこか悲しみも含んでいた。

僕にもこういう感情が残っているんだ、と少し安心した。

轟音の響きがどんどん遠ざかっていく。

粉塵の舞った奥には無傷のレプリカルークたちがいた。

たしか自分の張ってあった罠があったはずなのだが・・・

その一部始終を見ていたボクは口を開く。

「・・・・・・第二超振動か。冗談じゃないね」

彼らの前に立ちはだかる。

「シンク。あんたもイオン様と同じレプリカでしょ!どうしてこんな計画に加担するの!」

アニスが僕を睨む。

だがそんなことは気にしなかった。

「同じじゃない。そんなことはおまえだってわかってるだろ?
 イオンは・・・・・・七番目のイオンは甘ちゃんだった」

誰も何も言わない。ただ、ボクを同情するかのような目で見ている。

それが腹立たしかった。

「ボクはヴァンに加担する。ヴァンのやり方なら真の意味で預言はなくなるからね」

そして、一拍置いて、

「ボクは預言が憎い。恨んでるのさ」

「・・・・・・捨てられたからか?」

レプリカルークの問いにボクは否定した。

「違うよ。生まれたからさ!」

ボクの剣幕にレプリカルークたちは圧倒される。

「おまえみたいに代用品ですらない。ただ肉塊として生まれただけだ」

それでも、ボクは続けた。自分という存在を否定する為に。

それでも、生きている、と認めてもらうために。

「ばかばかしい。預言なんてものがなければ、ボクはこんな愚かしい生を受けずに済んだ」

そんなボクの言葉にアニスが恐る恐る口を開いた。

「・・・・・・生まれてきて何も得るものがなかったっていうの?」

「ないよ。ボクは空っぽさ」

即答するボクは笑みを浮かべる。

一斉にボクに襲い掛かってくるがバックステップでかわす。

「試してみようよ。アンタたちと空っぽのボク、世界がどっちを生かそうとしてるのかさぁっ!」
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