宝物

□HAPPYVALENTINE!!
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「ゆ、遊星。これ……」

頬を赤く染めたアキは、破裂してしまうのではないかと思えるほど鼓動が高鳴るのを感じながら遊星にプレゼントを差し出した。

「……ありがとう」

アキの顔が赤いことを不思議に思いながらも、かわいらしくラッピングされたそれを受け取り遊星は薄く笑った。

「だがアキ、俺の誕生日は今日じゃないぞ」
「え?」
「今日は何か特別な日だったか?」

クリスマスでもないしな。という遊星の呟きを聞き、アキは嫌な予感を覚えずにはいられなかった。
そういえば彼はついこの間までサテライトという女っ気の薄い場所にいたのだ。
もしかすると……

「バレンタイン、知らないの?」
「ばれん、たいん?なんだそれは」

予感的中。
思わず固まってしまったアキは、続いて自分の言葉を悔いた。
知らないなら厚意で、ということにしておけばよかったのに。
知らずにいてくれたほうが、アキにとって救いだった。

「アキ?」

アキの内情など知らず遊星は固まって動かないアキの顔を覗き込んだ。遊星としては初めて訊いた単語が気になって確かめようとしての行動だったのだが、アキにしてみればある意味傷を抉られるようなものだ。

「〜っ! ごめんなさい!」

羞恥に耐えられず、アキは耳まで赤く染めて走り去った。恐らく全速力で去っていったであろう彼女に追いつけるはずもなく、また突然の逃亡に反応できず、遊星はただアキが去るのを見送るしかできなかった。

「……マーサに訊けば、わかるだろうか」

身近の者でも知っていそうだが、絶対とは言いきれない。こういう面で一番頼りになるのはマーサだ。なんとなくだが、昔彼女の口からバレンタインという言葉を聞いた覚えもある。

「……」

手元のプレゼントを見て、ふいにアキの真っ赤な顔が頭に浮かんだ。熱があったのだろうに、何故彼女はプレゼントをくれたのだろうか。
破らぬよう丁寧に包装を解き、蓋を開けると甘い香りが広がった。

「チョコ、ケーキ……」

ミニサイズのそれは箱と同じくかわいらしくトッピングされていて、アキが苦労して作ったのが伝わってくるような気がした。

「……今度、ちゃんと礼を言わなくてはな」

笑みをこぼしながら、遊星は呟いた。
彼が答えを知り、アキの家を訪ねるのは、もう少し後のお話。

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