Tales of Vesperia

□11がつ12にち
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「ユーリ、ポッキーの日だよ!」


バンッと部屋の扉を開けると意気込んだように入ってきたのは親友兼恋人のフレンだった。

「それ昨日な。忙しすぎて日にちも分からなくなったのか騎士団長」

入り口に背を向けてベッドに寝転んでいた俺は振り返ることなく言ってのけた。
するとギシリとスプリングが軋む音がしベッドにもうひとり分の重力がかかる。

「分かってるよ!でも昨日は書類整理とかで一日潰れちゃったし、ユーリだってギルドの依頼で結局会えなかったじゃないか」

むぅ、とむくれながら顔を覗き込まれた。
成人越えた男がする表情じゃねえぞ、と思いながら身体は寝たままにフレンに向き直る。


ここはギルドの巣窟のダングレストの宿屋だ。
俺はちょうどカロルやジュディと別行動でこの地でギルドの依頼を受けていた。
昨夜フレンから連絡が入り「会えないか」と言われ依頼は夕方までに終わりそうだったので夜なら大丈夫だと返すと「じゃあまた明日、」と詳しいことも言わずに切れてしまった。

一体なんなのかと考えあぐねたが検討もつかず明日も朝早かったのでそのまま寝てしまったのだ。


そして明くる日の現在、興奮気味のフレンが目の前で赤いパッケージの箱を片手にいるわけなのだが、その意図が読めるだけに余計にフレンらしくない行動に眉間に皺が寄ってしまう。

「で、俺とポッキー食べる為だけに愛馬走らせてダングレストまで来たってわけか?」

お前らしくない、と口にするとフレンは落胆したかのように眉を下げ前屈みの姿勢を起こしてベッドに腰を掛け背を向けた。

「ユーリは会いたくなかったか?」

しゅんと背中を丸めその表情は見えないがきっと悲しそうにしているのだろうと思った。

いつもの頑丈な鎧姿ではなく軽装で来ていることに騎士団長の自覚はあるのかと心配になる。
ただでさえ騎士団というだけで疎ましく思われているだろうに、騎士団の長となると尚更だ。
フレンが簡単にやられる奴でないことはわかっているが、もう少し危機感をもってほしいものだ。

会おうと思えばいつでも会えるし(バウル借りて)、それ程までに急く必要もないと内心思った。

「そうは言ってないだろ。ただいつものお前なら下らないって言って見向きもしなさそうだからさ」

身体を起こしフレンの横に移動して金糸の髪を撫でる。
するとフレンは擽ったそうに身を捩り尚も顔を上げようとせず表情は見えない。

意地っ張りな奴だ。

そう言うと「君も大概だよ」と返ってきそうなので止めておく。

「フレン」

赤いパッケージの箱を握りしめたままのフレンからそれを奪いとり封を開ける。
袋の中から現れた均等に整列した茶色のプレッツェルから甘いミルクチョコレートの香りがし、甘党の俺はそれだけで笑んでしまった。

名前を読ぶとぴくっと反応したフレンは、それでもこちらには向いてくれない。


痺れを切らした俺は肩を掴み無理矢理ベッドに押し倒した。
吃驚した顔のフレンに駄目押しで乗りかかり動けないように押さえつける。

「ッ…!ユーリ!」

身動きの取れないフレンは焦ったように俺の名前を呼んだ。
苦渋の表情を浮かべる最愛の恋人に加虐心が沸き上がる。

「こういうの期待してたんじゃねえの?フレンは」

意地悪く笑って見せると、みるみるうちに顔を赤くし強引にでも起き上がろうと抵抗を見せ、ばたばたと手足を動かす。
しかし、いくら体術や護身術に長けたフレンでも同じ体格の男に馬乗りになられては簡単には抜け出すことはできないであろう。

それに割と俺にあまいフレンは本気で抵抗はしない。
まあその前に抵抗できないくらいに抱いてしまうのであまり意味をなさないだけなのだが。

「なあフレン。そんなに俺に会いたかった?」

耳もとで甘く囁くと赤くなった顔に更に目尻にうすく涙を浮かべて俺はそれを無言の肯定と受け止めた。
目尻に口づけをし涙を舐めとるとやはりしょっぱい味がした。

「ほら、あーん」

ベッドに横たわった袋から一本だけ細長い菓子を取りだしてフレンの口に宛がう。
するとフレンは最後の抵抗と言わんばかりにきゅっと口を一文字に結び拒みを見せる。

「へえ。…上等」

「え…っ?!んんっ!」

どこまでも頑固で素直じゃないフレンに少々手荒な行動をとった。

顎を掴んで固定させ、もう片方の手で頭の上に両手を纏める。
フレンの腹の上に全体重をかけ準備万端だ。

己の口にプレッツェルをくわえて、もがいて気のゆるんだフレンの口に強引に押し入れる。

ゆっくりと見せつけるかのようにぽき、ぽきと折っていき距離が縮まりとうとう唇が合わさった。

「ふぁ、ユー、リ」

「ん、あま」

そのまま味わうかのように深く舌を絡ませて吸い上げると恍惚とした表情をさせ抵抗もだんだんと弱まり、くたりと手も足もベッドへと沈んだ。

フレンの口の端についたチョコレートを舐めとり軽くそこに口づけをする。
リップ音をさせて唇を離し、手の拘束を緩めかわりに頬を撫でる。

「観念したかフレン」

「…………ユーリのエロ大魔王」

いまだに紅潮させた顔がなんとも初心である。
数え足りないほどこれ以上のこともしているのにいつまで経っても慣れないフレンにもどかしさと愛しさが込み上げる。


すると緩慢な動作で袖口を握られて引っ張られた。
しかしそれには拒否するのなら容易く出きるほどに力が込められておらず余程騎士団長の職務に疲れているのかそうでないのか。


フレンのその表情には期待と不安が入り交じっていて俺はなんとも言えない幸福感に苛まれる。


俺は引かれた腕をそのままに重力に応じ再び距離を縮めた。



その先を知るのはふたりと赤い箱だけ。
 

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