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女性の恋愛論で『好きな男を落とすなら、まずは胃袋から』なんて説があるが、あながち間違いじゃないな、と実感ながらエドは目の前の夕飯に舌鼓を打っていた。
以前のエドなら『彼』が来訪したら「先輩、野宿って言葉を知ってますか?」と辛辣な台詞を浴びせて部屋になど入れなかったのが、うっかり彼の手料理を口にしてからはそれを目当てに『彼』の来訪を許してしまっている。
そこにはもちろん恋愛やら甘い思考やらは露ほどにも存在していないが、これも一種の『胃袋を掴まれた』という事なんだろう。

そんなどうでもいい事をぼんやり考えていたら、ふと眉間に皺が寄ってしまっていたらしく、テーブルを挟んだ向かい側に居る『彼』――遊城十代が「何か味が変だったか?」と心配そうな顔をした。


「いや、ただ…普段ガサツな奴がよくこんな繊細な味を出せるなと感心してたんだ」

「素直に『先輩、とっても美味しいです』くらい言えないのかよ」

「僕は言葉よりも態度で示すタイプなんだ。目の前の皿から料理が減っていく様を見れば火を見るよりも明らかだろう?」

「……そういう言葉が足りないのが、熟年離婚の原因の1つなんだってよ」


テレビでやってたぜ。
どこか得意気に言って見せる十代の態度に、エドは今度は意識的に眉を寄せた。
なにが熟年離婚だ。熟年でもなければ既婚者でもないのだからお門違いの忠告だ。
言い返してやりたい気持ちもあるが、こんなつまらない事で言い合いをするのは明らかに時間の無駄だろう。
エドはそう思い至ると、真逆に話題を変えてみた。


「そういえば、最近は料理の出来る男がモテるらしいぞ。……ガサツでデュエルしか頭にないお前でも、こんなに美味しい料理を作れるんだ。お前と結婚した人は、さぞ幸せだろうな」

「あー、最近話題の料理男子ってやつ?」


ふーん、と適当な相槌を打ちながら肉じゃがのじゃがいもを一口大に切り分けた十代は、パクりと一片を口に含んでモゴモゴと口を動かした。
この男も女子に興味がないわけがないだろう。頭の大半をデュエルで埋め尽くされていようが、男であるのは変わりないのだから。
エドも肉じゃがへと手を伸ばしつつ、十代の様子を窺った。


「でもさ、それってつまり…俺はお前を幸せに出来るスキルを持ち合わせてるって事だよな?」

「………は?」


何でそういう話になるんだ?とエドは首を傾げるも、十代はニヤリと笑みを称えたまま行儀悪く箸の先をエドへと向ける。


「だって俺と結婚した奴は幸せだって言ったのはお前だろ?なら俺がお前と結婚したら、お前は幸せって事になるじゃん」

「え…いや、そういう事じゃ…」

「つまりはそういう事なんだよ」


まるで押し切るように放たれた言葉に思わずエドは口をつぐんだ。
ただの仮定で、言葉遊びのようなもの。本気にする必要などない、のだが――
それにしては柔らかすぎる双眸で見つめてくる十代に、エドは居心地の悪さを感じて逃げるように目を逸らした。


「……相も変わらず、馬鹿な発想しかしないんだな」



思わずそんな未来を想像してしまった事と、それが意外にも悪くないと感じてしまった事は口が裂けても目の前の男には言ってやらない。



END


実は11/22の日に書いたんですが遅刻しました…!

相手を好きだと自覚ありきの十代と、自覚なしのエド。
まぁ気長に待つかなーと、エドが自分の気持ちに気付くのをてぐすねひいて待っている余裕なアニキが好きです。





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