小説 (テ/ニ/プ/リ)

□空蝉
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「仁王先輩、好きです」
近くで蝉の鳴る季節、学校内で最も暑いと思われる屋上で、ありきたりの台詞。


だけど、前からそいつのことは気になってたからいいかと思ってた。
告白されたら“付き合っ”ても。俺とそいつが付き合うという噂は忽ち学校に広がった。柳生も応援してくれた。いつもの微笑を忘れずに顔に貼り付けたたまま。
誰を紳士と言うのか、よっぽど彼は道化師だ。柳生は俺とその女が付き合った日
以来酷く不機嫌になった。しかし誰にもバレてはいなかった。その嘘に気づいて
るのは俺と幸村、柳くらいだろう。
ただ理由が分からなかった。どうして不機嫌なのか。もしかしたら柳生もそいつを好きだったのかもしれない。
俺は柳生の不機嫌さを忘れるために彼女ばっかりに熱中した。そして部活をサボるようになり、頻繁に真田に怒れるようになり、柳生がそのたびに庇ってくれた。

「まったく、貴方という人は」
「…いた」
「これくらい我慢してください。それに消毒は沁みるものです」
「…すまん…」
「謝るくらいなら、最初からしないでください」
「…」
「それに私にもトバッチリを受けるのです」
「…」
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