□個別授業
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科学教師、アンダーテイカー編―――。





授業も終わった放課後

次々と生徒達が帰路の道を辿る中







タタタタタタッ…!






この生徒だけは、何故か逆行するように

楽しそうに階段を駆け上っていた。






タタタタタタッ…!






「ふふ〜♪今日は先生と二人っきりの補習〜☆」





科学の授業で補習を言い渡されたにも関わらず、生徒、美月は上機嫌だった。





例え補修といえど、彼女にとっては憧れの先生と二人っきりになれるチャンスなのだ。それ故に、密かに胸踊らせていた。






生徒の間では【変態】【キモイ】【ゲゲゲの○太郎】などと影口を叩かれている科学担当のアンダーテイカー先生だが、美月にとっては憧れの存在であった。






タタタタタタンッ…!





長い階段を一気に駆け上がると、しんと静まり返った校舎の最上階に辿りつく。





人気のない廊下の突当たりに、先生の待つ科学準備室はあった。





美月は扉の前まで行くと、一旦歩みを止め、身嗜みのチェックを始めた。制服のポケットから女の子の必須アイテムである鏡を取り出すと、ささっと手櫛で髪を整える。







「…よし!」






高鳴る胸を落ち着かせるように、一度深呼吸をした後、意を決して扉をノックした。






コンコンッ!!






「どうぞ〜♪」






予想通り中からは、独特の怪しい声が返ってきた。





ガチャッ!!





「…失礼します。」





パタンッ!





一礼して入室すると、先生はいつものように壁際の椅子に腰掛けていた。






「…ああ、待ってたよ。よく来たねぇ。」





アンダーテイカー先生は振り向くと、ニヤリと美月に笑みを向けた。






「ところで先生、補習って何をやるんですか?蛙の解剖なら…ちょっと勘弁してもらいたいんですけど…。」





なぜ補修に至ったのか、それは科学の授業で【蛙の解剖】の実験の最中に、美月が気を失ってしまったからだった。






「美月はホントに解剖が嫌手なんだねぇ〜?そう心配しなくても、解剖はやらないよ。」



「…え?本当ですか?」



「ああ。嫌がる生徒に無理強いするのは可哀想だからね。」



「よ、よかった。」





美月は安堵の声を上げると、部屋の中を興味深そうに見渡した。すると机の上には、色々な実験器具が置かれ、壁一面の棚には薬品の瓶が所狭しと並んでいた。






(すっごい薬品の数)







「…ほら、いつまでも突っ立ってないで、座ったらどうだ〜い?」



「あ…は、はい。」





椅子にかけるように促され、美月は先生の隣に腰掛ける。





すると、机の上に実験道具が並べられていた。




これから実験でもするのだろうか、フラスコやビーカーの中には透明な液体が入っていた。その液体を沸騰させたいのか、アルコールランプで加熱している。





「…先生、一体なんの実験を?」





しかし、そんな問い掛けに答えないまま、先生は怪しげな壺を取り出すと、その中から茶色い葉っぱのような物をひと掴みして、その中に投げ入れた。






パパッパッ…!



グツグツグツ…



コポコポコポコポ…






液体の中に投入された葉は、グツグツと煮立つ度、フラスコの中を跳ね周り、そのうちに透明な液体は、徐々に茶褐色に変色していった。





美月は眉を寄せながらも、黙ってそれを静観する。








間も無くして―――。







上部のフラスコの管から、赤茶色の液体が流れ落ちてきた。






ポタッポタッポタッ…






その液体は、下に置かれた大きめのビーカーに、みるみるうちに溜まりはじめた。






部屋中には不思議といい香りが漂う。






先生はそれを、手際よく小さめのビーカーに分けると、スッと美月に差し出した。







コトリッ…





「ヒッヒッ…さ〜あ、小生特製のお茶だよぉ〜♪」




「・・・・・・。」

(…お茶…かな?)






怪しい作業工程を見てしまった美月は、ビーカーを凝視したまま動く事が出来なかった。






「おや…どうしたんだい?そんな熱くはないから、すぐ飲めるよ。」





そんな美月に首を傾げつつ、先生はお茶を一口飲み込んだ。





コクッコクッ…






美月は息を飲み、心配そうに先生を見つめていた。すると、そんな視線に気付いたのか、先生は苦笑を浮かべた。





「騙されたと思って、飲んでご覧?」



「…は、はい。」

(匂いはお茶だけど…実験器具で淹れるなんて…)






美月の視線は、目の前の実験器具に注がれていた。







なぜ、お茶に手をつけないのか?

なにを、心配しているのか?

先生は、やっと気付く。








「ああ…大丈夫だよ。これは小生がお茶を淹れる時に使うお茶専用の備品だから」



「お茶専用の備品。」





そんな言葉に安心したのか、美月はおずおずとビーカーを手に持ち上げる。







赤茶色の澄んだ液体は

見た目は紅茶その物で

それでいて微かに

柑橘系の甘さも香っていた。








「…い、頂きます。」



「ヒッヒッ…どうぞ〜♪」





コクッ…





恐る恐る一口飲むと、美月の顔にふわりと笑みが浮かんだ。






「嘘っ!?美味し〜い♪」





思わず本音を漏らしてしまうほど、そのお茶は見た目に反し美味しい物だった。






「気に入ったか〜い?」


「はい!凄く美味しいです。」


「ヒヒッ…それは良かった♪」





美味しそうに、お茶を飲み干す美月の喉元を、先生はじっと見つめたまま、不敵な笑みを浮かべていたが、この時の美月はまだ気づいていなかった。
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