インナモラート:レオパルド

□豹
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『フォークは…そんなことをするためにあるんじゃありません』


おれは、そのときの女子大生の露骨な敵意むき出しの表情を思いだしてぷっと吹き出した。そして、ペンネのささったフォークをおろし、昨日の昼間のことをその台詞から少しずつ掘り返してまた笑った。短時間にこんなに笑ったのは久しぶりだ。

結局あれから、おれはボロネーゼを女子大生の細い背中をながめながら昼飯を食ったすぐの胃に無理矢理詰め込んだ。繊細…ではなかったが、若い女が作るような上品な味だった。まあ要は薄味だったと言うことだ。ここにくる理由が、ひとつ増えそうだ。
おれががたりと立ち上がると、瀬尾もカウンターのむこうからひょっこり頭を出した。(小動物のようだった)そして代金をちょうどで払い、世界一心のこもっていないまたおこしくださいを背中で受け止め、臨時閉店のはずの喫茶店からでていった。

正直、驚きだ。
おれはじぶんで言うのもなんだが、なかなかに俗に言うセクシーだとおもっている。齢24、じぶんで言うのもなんだがエリート、じぶんで言うのもなんだが金持ち。昨日もわざと身体のラインを強調するようなものを着ていったのだが、あまり興味を示していなかった。じろじろみられたのは恐らくまた違う理由だろう。
こんなおれが、耳元でささやいたり、フォークをもてあそんだり、色気なら精一杯吐き出したつもりだった。ところが、だ。
あいつは全く、全くだ、おれに媚を売ったりする態度を見せなかった。声がやたらと高くなったり、かわいこぶってみせたり……すくなくともおれがいままでにであった女は全員そうだった。なんとかしておれのフェイバリットになろうと、躍起になっていた。もちろん努力賞として、それなりにいいものを食わせ、いいものを買ってやり、最終いいホテルで抱いてやった女もいる。
しかしながら、おれの気持ちは満たされるどころか、どんどんかわいて、ひらひらととんでいってしまいそうになっていた。
そんなときにあらわれたオアシス、瀬尾だ。あいつの細腕で背中を抱いてもらえればあるいは、おれは十分すぎるほど満たされるはずだ。



「……いまにみていろ…」







瀬尾、狙われる

(正攻法では、捕らえられない)











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