なまもの

□林檎
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「すてきな帽子ね」



そう後ろから声を掛けたのは、まだ年端もいかなさそうな女だった。
おれより幾分背が低く、口端をすこし上げながら(つまりは薄笑いであるが)、おれの帽子、あるいはおれをみつめている。
おれが はァ? とだけ言うと、少女はもう一度言った。



「あんたの帽子、素敵だね。おじさん海賊?」

「お嬢ちゃん、わかってるのなら声を掛けるな。おれは急いでるんだ、死にてえのか」

「あらそう、そういう事言われると引き止めたくなるのがあたしなの。残念だったわね、あと、死にたくはないわ」



眉をちょっとだけ動かして、言う事と顔の年齢層があっていない少女に背を向けると、すこし間を置いてついてくるのがわかった。

最初は大丈夫だったのだが、くすくすと笑われてしまうといらいらしてしょうがない。



「手前ぇ……」



いらいらが頂点まで達したところで後ろを振り返るが、小柄な少女はみあたらない。
思わず探してしまう自分に心底腹が立った。
体は意思を裏切ったってやつかな。

ようやくみつけると、奴は林檎を買っていた。
青林檎だ。しかも紙袋いっぱい。
その内一つをかじりながら、少女はこっちへきた。



「あ、おじさんどうしたの、忘れ物?」



白々しい笑みを浮かべながら。

しかしおかしい。
おれはこいつに好物が青林檎だとおしえた記憶はない。
まさか偶然か?
おれについてきているというのもおれの思い過ごしか?

それならおれは、口惜しい感情に心身を支配されているではないか。



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