(゚q゚)

□4(終)
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*


「いやっ、やめてよ!!やめて!」

「うるっさい!でかい声出すな!!」

「だれかきたらどうすんだよ!」


黒髪ストレートのとある女生徒(αとする)は、金髪のボブカット(βとする)に羽交い締めにされた私のミディアムな長さの髪の毛をひとふさ乱暴につかんだ。最近トリートメントしてないからバシバシなんですそんなにみないで。
やがてαは、ブレザーの内ポケからハサミを取り出した。もちろん散髪用じゃない。ていうか勘違いしてほしくないのは、私は別に美容院に来ているわけでも何でもないってこと。もちろん、普段からなんの因果か私のことをいじめたくっている二人なのだが、今回ばかりはまじでやばい。いまからされることは強烈な証拠になるし、あやしまれては面倒だ。別に髪の毛はどうでもいいのだけれど、おかあさんやおとうさんに心配はかけたくない。キッドやキラーくんにも。

しかしそんな願いはつゆほども届かなかった


ざくっ


独特の気持ちいいおとがして、ぱらぱらと黒いものが地面に落ちた。
と、同時に、首もとを風がすり抜け、寒イボを誘った。やられてしまった。しかも結構なお手前(笑)だ。
βはうでをほどき、背中をどんとおして、αのまえに這いつくばらせた。


「ざまあみろ」

「お似合いだよ。あはは」


腹が立ったし、はさみで静脈ちょんぎってやろうかともおもった。けど、たかが髪ぐらいで……とおもいとどまった。えらい、私。
βは、私の背後からまえに回り、αと一緒になにやらはなしながらきえてしまった。


「あっ、まって!!」


伸ばした手も声もとどくことはなく、校舎裏の一角で、私は死んでしまった髪の毛をみつめ涙した。


「反対側もきってよォ!!!」






*





「あ゛ァ……?」

「…………」


校門のまえにどっかりすわって、ボス面したこのヤンキーと(たぶん)その従者は、私の、おそらくニュー髪型を見て、驚きと怒りの表情を浮かべた。(結局、あのあと文具のはさみで適当に揃えた。)
おそらくだが、怒っている理由は三つだ。

ひとつめ

「てめェいつまでおれ様を待たせんだこのグズ!!」

ふたつめ

「用事ってなんだ!散髪か!?はいそうですゥ?はぁそうですか、散髪ですか、ってこのゴミ!!いやゴミ以下!!!」

みっつめ

「ていうかそれあのクソビッチにやられたんだろどうせよォ!?ぶっ殺す!!!そのあとお前もぶっ殺すこのカス!!!」


キッドは口が悪いと言うのは重々、重々承知しているが、そこに自慢のハイパーボイスがくわわるとえらいこっちゃだ。私はさっきのワンミニッツでなんど鼓膜が破れそうになったか。鼓膜さん私のためにこのバカの声を耐えてくれてありがとう。
私が鼓膜をいたわっている間も、キッドはイライラと舌打ちを繰り返していた。私の首もとの寒イボはニュー髪型のせいだけじゃないらしい。


「おい、いくぞキラー」

「……」


キラーくんは、キッドに返事をせず、ただあとに続いた。キッドもキラーくんがついてきていることは知っているので、あえて振り返ったりはしなかった。そして、その二人の行く末を考え、私は寒イボの正体を知る。


「だ、だめだよ!!私は大丈夫だからもう帰ろう!」


キッドは、やっぱり振り返らなかった。キラーくんも。
でもかわりに、前だけを見てこういった。


「……黙れ」

「異論があるなら、ついてこい」


ローファーの音、走りながら切る風、陸上部の外練の声が、首もとをから回った。






*






「は?ユースタスとキラーくん?なんで?あいつの彼氏だっけ」

「知らねー」


αとβは、帰宅部のくせに帰宅していなかった。教室の机の上にあぐらをかいてケータイをさわっていた。私は、キッドの服をずっと引っ張っていたが、バカ力で定評のあるこいつにはきかなかった。ずるずると引き摺られ、教室の真ん前まで来たときは乳酸たまりまくりの手がとうとうキラーくんにはずされてしまった。適当にさすってくれたが、むず痒く痺れただけだった。


「おいコラ、ビッチども」

「だめェ!!」


最初に気づいたのは、窓に背中を向けて座っているαのほうだった。口を開けてこっちをみている。続いてβが振りかえる。


「は?おまえなにやってんの」


おまえ、たぶん私のことだ。


「ご、ごめんnうぶ」


キラーくんは、後ろから私の口を押さえた。そして、いつかみたいに腰にがっちりと腕を回す。手をかきむしるが、今回もはずすことはできなかった。
キッドは逞しい背中をこっちにみせ、シャツの腕をまくった。


「ユ、ユースタス」

「ぅ、ううぅっ!!!」


静かに
と、例の妙に色気のある声で吹き込まれ、黙るしかなくなった。どっちにしろキッドはやると決めたことは止められない男だから、せめて抵抗しているという事実だけは主張させてくれ。
そんな思いはむなしく消え、声をあげようにもそもそも息をするのも大変になってしまった。


「……」


ほらほらほらほら、怒ってるよ怒ってる。睨んでるもん。これが嫌だったんだ。きっと、この一件後、いじめはエスカレートするだろう。それだったら、αとβふたりだけのほうがまだかわいいものだ。私は、その二人がキッドのせいで四人、八人、十六人……と増えたらば、どうしよう?

私は、キッドのそういうところはすごく嫌いだ。後先も、人のことも考えない真性の脳みそ筋肉男。


「っ、つ……」


私は、目の前で暴れそうになるキッドと私の行く末を嘆いた結果、キラーくんの手を噛み、キッドを力付くでも止めるという作戦に転じた。
手をばきばきと鳴らし、いつのまにやら怯えすくんだ女生徒のまえに仁王立ちするキッドに、精一杯タックルした。


「もういいよ!!私は大丈夫だから、この子達を傷つけないで!!!(あとでえらいことになるから)」


タックルをしたやつの正体を知ると、キッドは信じられないほどでっかい声をあげた。


「おらてめェエ!!!誰に向かって口きいてるかわかってんのかぼけェ!!」


キッドが興奮した獣のように腕をふりかざして暴れているので、私は被害が大きくなりかねないことを危惧して、αとβに顎で逃げろと指示する。と、いままでうずくまっていたのが、すさまじい逃げ足でキッドの脇の下を走っていった。


「キラー!!」


キラーくんは、涼しい顔(?)でそっぽをむいた。


「…………命令されていないものでな」


キッドはついにぶちギレたのか、椅子をひっつかんでひょいひょい投げ始めた。私はキラーくんに引っ張られ、肩をだかれながら、キラーくんに次々とはじきとばされる椅子を呆然と眺めていた。
両手の椅子がなくなり、つかみなおした(ちなみに私の椅子もそのなかにはいっていた)隙をつき、きっと痛んでいるに違いない腕をさすりながら、キラーくんは小さく『あと二つ…』と呟いたけど、たぶん椅子のことだろう。キッドはむかしからはげしい性格だから、キレると自分でもよくわからなくなるほど暴走するのだ。

そして、2つ投げ終えると、スカッとキッドの腕は空中を動き回った。けたたましい音をたて、最後の椅子(私の)は床に落ちた。
投げる椅子がなくなり、キラーくんは『離れろ』と言って私を突き放した。なんかおかしくない?


「マックいこうぜ」


キッドは、真っ赤な髪をかきあげて、制服を直した。

その様子を見て、腹は立つわ、こわかったわ、力が抜けたわで、私の目から熱いものが込み上げた。


「…………う……ぇ……」


あいぽんでかざすクーポンをさがしていたキッドは、私に気づいたのか、今まであったことを忘れてしまったかのようにまたひどいことをいった。

「なんでなくんだよめんどくせぇ!!」


それに同乗、キラーくんもあいぽんをいじりながら、違いない、と言った。それがあまりに普段すぎて、なんだかめまいがした。







結局、恐れていたことは起こらず、αとβは謝りに来てくれた。なくなった髪の毛は戻らないけど、彼女たちを恨んでなかったので、穏便に返しておいた。

その事をキッドにつたえるが、怒りはおさまっておらず、一発はなぐりてェと言っていた。止めたけど。
ていうかそもそもなんで、仕返しをしてくれようとしたんだろう?私は、彼らのいらいらの捌け口でしかないはずだ。


「キッドは、おまえが大事なんだ」


私が?


「おれも例外ではない」


…………。


「ただちょっと……」


不意に、頬をさわられた。
どきりとするが、すぐに違うどきりになった。


「いだだだだっ!!!」






憎たらしいだけだ

(まあ、お前より大事にしているがな、キッド)

(フザけやがって……ショートなんかにあうわけねェだろ……)









0219

キラーくん落ちになった不思議
ということで、だらだらつづいたキッド(キラー)中編おわりでございます
いままでよんでくださってどうもありがとうございました(*´ω`*)

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