おやすみ
□鼠色の珈琲
1ページ/4ページ
私は、彼の名前すら知らなかった。
わかるのはただ、海賊だってこと。
あと、とんでもないほら吹きだったってこと。
その日は、嵐だった。
私は外に出てもろくなことはないと分かりきっていたので、家の中でじっとしていた。
私の家は、海の近くである。
それゆえ、荒れ狂う海におびえながら本を読んでいた。
ふと、がたがたゆれる窓から外を見ると、誰かが浜で倒れている。
「……」
それは明らかに人である。
本にしおりをはさんで、小さく溜め息をついた。
(面倒臭い…)
しかしあの人がまだいきていて、私が放っておいたことによって死ぬことがあれば、あの人の霊に一生苛まれることだろう。
私は古びた椅子からたちあがり、傘もささずに外に出た。
.