おやすみ
□下
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私が突き付けたあの条件は 当然ながら、私がすることを前提としてかんがえていない。ロブが私にやることを考えて、練り上げた条件だ。私の自信がそれほどまでにすさまじいものだったということなので まあよしとしようじゃないか。
さて 私は逃げようとしたのだが、逃げられるわけもなく、仕方なく彼をお姫様抱っこしようとしたときだ。
『ちょっ……と……脚もっと……まげ、て……!!』
『限界だ。これ以上は下に重心が行き過ぎておちる。』
『そんなこといっても……手届かなっ…あ、だめだ、』
ばたんっ
ロブの巨体が私の腕から滑り落ちる。 乳酸がたまりきっていた腕はすっと血が通り 疲労が一気に押し寄せた。ロブは私の足下で無表情でたおれたまま 私をにらんだ。
『で、どうするんだ』
すいませんでしたほんとじぶんであるいてください
「さあ、飯を作れ」
ロブは、さんにんがけぐらいの黒いソファをひとりでつかうようにもたれこんだ。普段もそうやってつかっているんだろう。じゃあ一人がけかわんかい!!
ロブの家は わたしが住んでいるアパートの倍ぐらいの広さがあった。私と一緒の状況にあるはずなのに なんでこんなにも差があるのか。もしかしたら学生じゃないのかも。 …いやそんなわけないか。
要は、全体的にうちのものよりもひとまわりランクが上なのだ。
水器なんかあるし 食洗機もある。一人暮らしの学生に必要ないだろばか。
「…」
私が テフロン加工の施されたフライパンをじっとながめていると、私の胸中を悟ったのか ふりむきながら私を見ていたロブは、ふっと鼻で笑い 私に声を掛けた。
「一個ぐらいならやるぜ」
「うるさいいらない」
くそうほんとなら うへマジっすかもらっちゃってもいんすか とか言ってもらうのに…相手が相手なだけに、素直に受け取れない。
私は これまた学生にはいらないぐらい背の高い冷蔵庫をあけた。もちろんツードア。
中には 名前すらしらない調味料やら 真空パックされたわけの分からない食べ物(ピータン?だっけ)がたくさんはいっていた。冷蔵庫のそれだけをみるとまるで 映画に出てくるオシャレな外人さん(独身で、超エリートでiPadとかつかって仕事してて、アフガンハウンドとかでっかいいぬかってて、庭にスプリンクラーあって、喫茶店の女の子に恋されてるかんじの)みたいだ。
「あの…卵はこれですかね………」
「あ?」
もはや卵ですら疑わしくなって来て、ぱちぱちとテレビのチャンネルをかえていたロブにきくと、ロブはふりかえって 卵もわからなくなったのかこのバカヤロウは といわれた。 うるさいバカヤロウ。
私の持ち料理と言えば、天津飯ぐらいだ。でその天津飯をつくろうとしているのだが、彼は食べられるのだろうか。
「…天津飯でいいか?」
「グリンピースはいれるな」
「は?」
ニュースをじっとみるロブの意外すぎる返答に、私は思わず は? といってしまった。
ロブはこんどはふりむかなかった。そしてがしがしと頭を掻いて ぐぉっとふりかえった。
「グリンピースをいれるなといったんだ」
…えなにこの同級生
秀才とかいわれてる、そしてこの私と張り合うほどの偏差値を持つ男が グリンピースがたべれないだって?
全く きいてあきれる…私はこんな小学生みたいな奴にまけたのか。
ていうかよくかんがえたら、グリンピースきらいならおまえ買わないだろ ないもんはいれられないのですよロブくん。
とりあえず私は卵を何個か割り、ぴかぴかのボウルにいれて 菜箸でときほぐした。適当なぐざいをいれ、ふんわりとやきあげる。
「うむ…さすがは私……」
「なるほど人並みにはできるらしいな」
「うっわ!!!!!」
いつの間にか後ろに立っていたロブ。びっくりしたのもそうだが、ひとりごとをきかれてしまい、変な声が出てしまった。
ロブは 菜箸を持つ私の手をから菜箸をさらい、できた卵の塊を唇に運んだ。
ちょっと というまもなく、卵の塊はロブの胃におさめられてしまった。
やべえ私まだ食べてないのに。
とおもい、はっとした
私はいつの間にか こいつに。美味いものを食べさせねば、と思っていた。おかあさんに食べさせた時は 味見なんてしなかった…
「(どういうことだ…)」
「おいおまえ」
ロブは まるで私が遠くにいるかのように私をよんだ。
ロブへの謎の感情に首をかしげながら あん? と曖昧に空返事をすると、ロブはぐっと顔を寄せ わたしの腕を柔く掴んだ。
「な、に」
いつもとあきらかに様子の違うロブに 私は考えごとからひきもどされてしまった。
「おまえ…」
嫁に来い
(結構でございますご主人さま)
(給仕は黙っていうことをきけ)
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