灰男s

□マリオネットブルー
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『ねぇあたしを殺して?』






男は一瞬目を見開きすぐに飾り付けた笑みを浮かべた










マリオネットブルー















いつもみたいにふらふらと夜道を歩いていた



あたしの放浪癖は今に始まった事じゃない。

きっと死ぬまで治らないの。







満月の下をあてもなく歩いているとどこかで誰かが高笑いしているのがわかった



声につられて足が動く。






あぁ、行きたいのね。

わかったわ。







足が進むままに歩いて行くと、シルクハットをかぶった長身の男が満月に照らされていた






あたし、今まで見てきた何よりも綺麗だと思ったの。



その赤黒く染まった指先も、返り血を舐めとる舌も、何もかもが。




もちろん、あたしを見て妖しげに口角を上げる仕草もね。








「こんばんは。こんな夜中一人でうろついてちゃ危ないよ?」

『構わないわ。むしろあたしはあたしを殺してくれる人を探しているもの』








やっと会えた。


何でそう思ったんでしょうね。

今でもさっぱりわからないのよ。








『ねぇあたしを殺して?』







男は一瞬目を見開きすぐに飾り付けた笑みを浮かべた







「どうして?綺麗な顔してんのに勿体無い」

『顔なんてどうでもいいわ。楽になりたいの。もうこの世界に生きる意味はない。見飽きたの』

「そりゃまたたいそうな理由で」







ポケットから煙草を取り出し虚空に重い煙りを吐き出した







『ねぇ、この人みたいに殺してくれないの?早く死にたいの。あたし』

「…そんなに死にたいの?」

『ええ』

「じゃあ決まりだな」






話かみ合ってないわよ、そう言うと煙草を吐き捨ててあたしに近寄ってきた







「俺と一緒に生きろ。お前にとって生きるのは死ぬくらいツラい事なんだろ?」







そう言ってあたしを抱きかかえてニヒルに嘲笑う彼








冗談じゃないわ。


せっかく死ねると思ったのに。






冗談じゃないわ。


この頬につたう涙さえも。









「こんなに酷い人初めて会ったわ」

「はは、初めてなんて嬉しいね」








たんに、誰かに必要とされたかっただけ。



(無能な神を殺そうか)
(あら、頼もしいわね)
(…笑えんじゃん?)





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