灰男s
□久遠の一秒
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「こんな時間帯に何ほっつき歩いてやがる。その放浪癖、いい加減どうにかならねえのかよ」
『…酷い言い草だなぁユウ君』
仕方ないじゃない。
この時間帯が好きなのだから。
陽も昇らない明け方の早い時間。
徐々に明るくなりつつある世界は、やけに澄んだ白色。
日常の喧騒を忘れさせるこの空間はとても幻想的だと思うのだが、どうも彼には理解しかねる事らしい。
今日も一段と仏頂面だ。
『なんかさ、世界がまだ起きてない感じがして素敵じゃない?特別な感じ。分かるかな』
「全くわかんねえ」
『ふむ。困った。何て言ったもんかなぁ』
言葉の割に困った表情は浮かべず、むしろ軽快に笑うと、例の如く眉をしかめたのが見えた
身体ごと神田に向き直り、笑顔で首を傾げる
『そういうユウ君は何故こんな時間帯にこんな場所に?』
「………鍛練だ」
『…ぷっ』
「何笑ってんだテメェ」
より一層眉間にシワが寄った神田を見て慌てて手を振るが、如何せん、どうにも笑いが止まらない。
だって、鍛練って貴方…
ご自慢の刀持ってないじゃない。
そんな気の抜けた私服で鍛練するっていうの?(瞑想、ならまださ)
違うでしょ。
あたしの存在に気付いてわざわざ出て来てくれたんでしょう?
『あたし、ユウのことほんとよく分かってきたなー。』
「ぶった斬るぞ」
『わー!怖い怖い!ごめんなさーい、調子乗りました!鍛練って事でいいよ、鍛練か、そっかそっかあ』
「……なんかすっげームカつく」
チッとお決まりの舌打ちをする神田に笑みを返して、一歩一歩と彼に近寄った
『こんな時間だから…ほら…あたしたちの普通に話す声も大きく聞こえる。変な感じしない?世界が起きてないっていうより………世界にあたしたちだけしか居ないみたいじゃない』
「…ずいぶん、嬉しそうだな」
『そりゃあ…』
背伸びをし、薄い唇に触れるだけの口づけを交わした
『堂々と、こーゆ事できるし』
「…フン」
『ね?特別な感じ、しません?』
世界が目醒める、
一秒前に。
貴方と居る方法だけを考える。
(分かったから早く戻って寝ろよ。急な任務入ってもしらねえぞ)
(んー。じゃああと三回ちゅうしよ?)
(…わけわかんねえ)
(ふふっ。とか言って抵抗しないユウ君可愛いー!)
→あとがき。