□水底に堕ちる水仙
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この四角い世界には外があった。
目の前にある小さな農耕地に綺麗な花が咲いている。
管理者からあまり外に近付くなと言われていたから、毎日辺りが暗くなるとこっそり覗いている。
この時期になると、あの農耕地には気になる花が咲く。

何の花なのか、花に乏しい私はあれが何なのか知らない。
白と黄、同じ様な形で色違いの花。
私はその花が好きだった。

だが、私は外に出た事が無かった。
以前までいたこの世界の管理者に外に出る事を禁じられていたのだ。
だが、その管理者はもういない。
私を縛る人間はもういない。
私を愛してくれる彼の為に私は意を決して暗い外の世界に飛び出した。

寒い。
外の世界は、私の住む世界よりももっとずっと寒かった。
裸足で駆け出し、農耕地へと急ぐ。

農耕地はあの花で一杯だった。
誰のかも分からない農耕地に咲く花を白と黄、それぞれ彼と私に1本ずつあたるようにと2本ずつ根ごと摘み取り、高鳴る心臓を抑えながら急いで自身の世界に戻ろうとする。
その途中、私の姿を見て興奮した得体も知れない化け物が吠える。
ガチャガチャと激しく響く金属音と化け物の鳴き声に、私は震え上がった。
外にはあんな化け物がいるのかと。

化け物に追われない様に逃げる際に、花を1本ずつ落としてしまう。
構っている暇は無かった。
化け物が追いかけてくる。
そう思うと花よりも自分の身が大切だった。
彼にこの花を届けたい。
だからこんな場所で死ぬわけにはいかないと、夢中で走り帰還する。

壁に身を預け、呼吸を整える。
肩で息をするようなこんな状態で彼に会うのを恥ずかしく思ったからだ。
壁からずり落ち、そのまま膝を抱えた。

お腹が空いた。
そう言えば、何も食べていない。
ふと、手の中にある花が目に入る。
あの時は夢中で気が付かなかったが、根ごと引っこ抜いてしまったらしい。
花の下に、薄茶色くて丸いものが付いている。
この花の葉や根は食べれるのだろうか?
あの農耕地で育てているものは葉やその根まで食べれるものだと管理者から聞いた事がある。
ならばこの花の葉や根も食べる事が出来るだろう。
この葉と根を彼にもあげて一緒に食べよう。
立ち上がり、彼の下へと覚束無い足取りで歩く。

彼の下に行くと、彼も私と同じものを持っていた。
彼も私と同じ事を考えたのだろう。
同じ花を、持って微笑んでいた。
彼の身体は初めて会った時よりもやつれてしまっている。
彼の前に花を差し出して言った。

「これ、食べなよ」

彼も無言で私に花を差し出し、何かを訴えるように口をぱくぱくと開いた。
彼も同じ気持らしい。

「分かったよ。じゃあ、一緒に食べよ?」

微笑むと彼も微笑み返した。
嬉しくなって、2人で仲良くまず花の葉を食べる。
何の匂いもしないし、美味しくもない。
でも2人で食べるのが楽しくて、そんなことも気にならなくなった。
これを食べたらまたお話聞いてくれる?
草を食べながら彼を見る。
彼も合わせるようにこちらを見て、微笑む。

私達、いつまでも一緒だよ?


次に根を一緒に食べる。
2人で仲良く、土を丁寧に払い落して食べ始めた。
小さいものだからと2人は両方の花に付いている根を一気に口に入れてしっかり噛んでのみ込んだ。






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