□るどきよ その1
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目の前で揺れる彼の髪を、無意識にルドルフは目で追った。
彼の髪は面白いほどによく動く。
あっちへ行ったり、こっちへ行ったり。
跳ねて、踊って、落ち込んで、彼の髪だというのがよく分かる気がすると、つくづくルドルフは考えた。
図書館で読んだ、『犬』という生物は尻尾で感情を表現するらしい。
彼にぴったりと当て嵌まると、初めて読んだ時に酷く納得したのはいい思い出だ。

しかし、その犬という生物は、我々ワーウルフとよく似ているらしい。
だが、ワーウルフに尻尾は無い。
4足歩行もしない。
他人にそんなに媚びない。

犬は人間と仲良しだったと聞く。
顔を舐めたり、尻尾を振ったりするんだそうだ。
む、いかん。
昔ルヴュルが描いていた本の内容を思い出してしまった。
俺は、あんな事、するか!
してたまるか!

その例の本の内容はとても口に出して言えないほど恐ろしいものだった。
その日夢にも出てきて一回起きたぐらいで、相当のトラウマを植え付けられた。
なんと言えばいいのか、キヨと、その、子作り、していたのだ。
勿論、オス同士では子供は出来ない。
出来ないのにやっているのだ。
オス同士なんて気持ち悪いし、何よりやっても何も起きない!
そう、何も起きない。
何も起きないのだ。
あの本の中では、キヨと俺は恋人同士という設定らしい。
身体を寄せ合って、手を繋いで、キスまでしてる。
それでも足りなくて、もっと互いの愛を感じたくて、子作りに至ったという内容だった。

何故内容をそんなに詳しく知っているかって?
そ、それはだな、なんとなく、なんとなく全部見てしまったからだ!
い、今変態とか言ったか?
へ、変態ではない!断じて!
大体、聖教は同性同士の恋愛は禁じられていてだな!
本当だ!決して!そのっ、ルヴュルが描いた最中のキヨが可愛かったとかそんな事はないからな!
ハッ、今俺は何て言った?
わ、忘れろ!今のは忘れろ!

こほん、ともかく話が犬からずれたな。
キヨは犬だ。
それもどの犬よりも人懐っこい犬だ。
その人懐っこさに助けられた事の無い奴はこのクラスにはいないだろう。
俺も、キヨの人懐っこさに助けられた。
魔物、特に魔獣族の身体の成長スピードは人間の倍以上で、幼稚園に入った頃にはもう人間で言う小等部中から高学年と言った所だろう。
幼稚園にはシュナーベルもいたが、仲は今よりも最悪で、とある理由から「半端者」と言われていた。
すでにシュナーベルと友達であったキヨは、そんな俺に対して何も気にする事も無く、手を差し出して――。
「ボク、キヨって言うんだ!一緒に遊ぼ!」
キヨに掛けられた最初の言葉。
幼稚園で、初めて掛けて貰った言葉でもある。
笑顔で言われてそのまま引っ張られて、暗光や霞、シュナーベル達がいるグループへと連れて行かれて、そのままここまでつるんできた。
今思い返せば、あの時キヨに声を掛けて貰わなかったら、自分と言う魔物はこの世に存在しなかったのではないかと思う。
その後もずっと一緒に楽しい事や辛い事を経験した。

友達としてだ。

その気持ちも、最近変な方向に向き始めてきた気がする。
キヨを見ているとつい目で追ってしまう。
犬のように誰かとじゃれ合うのを見ているとなんだか寂しい。
キヨの笑顔を見ているとドキドキするのだ。
もっと酷い時は、気が付いたら「キヨはルヴュルが描いたような顔をするのか」と考えていた程だった。

一体どうしてこうなった。




「るーどさんっ」

考え込んで呆けていたルドルフの背中に、キヨが飛び込む。
その衝撃に、我に返ったルドルフは思わず全身の毛を逆立たせた。
背筋が凍り、冷や汗をかく様な思いに、ルドルフは硬直して動けなくなってしまう。
丁度キヨの事を考えていたというのもある。
考えていた時にタイミング良く来られると逆に困るものだ。

「き、キヨ!」
「ん?どーしたんだよ。そんなに驚いてさー俺とルドさんの仲じゃん」

変な事を言うなと内心ルドルフは思う。
俺とキヨの仲というのはどう言う仲だ。
俺は、変な事を考えるようなオスなんだぞ。

何処となく赤いルドルフの顔をキヨは急に黙ってじっと見つめる。
何か言われるのでは、ルドルフは背中が汗ばんでいくのを感じ取った。

「ルドさん」
「な、なんだ」
「風邪引いたんじゃね?顔赤いよ?」

よかった、風邪か。
風邪と勘違いしてくれたのか。
ほっと、胸を撫で下ろした。

「おし!じゃあ今日ルドさん家に行くぜ!」
「は?」
「俺が看病してやるよ!」
「な、何――!?」

あまりの衝撃と、実は本当に風邪だったルドルフはキヨの衝撃発言を聞いてその場に倒れる。
男子面子に運ばれて帰宅した、ルドルフは本当にキヨに看病された。
そこでも様々な事があったそうだが、それはまた次の機会に――。

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