不死鳥の騎士団

□You are very special to me: 2nd volume
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さて、とうとう例の土曜日がやってきた。週頭から今日までの五日間、フォーラとドラコはそれぞれ随分長い時間を過ごしたように感じていた。というのもフォーラが週頭の月曜日に、今日の十四時から日没までの間に校庭の湖のほとりまで来て欲しい、そこで大事な話があるとドラコに伝えていたからだ。加えてフォーラはそれ以降今日まで、一度も彼に声をかけることはなかったのだった。
フォーラを避けているドラコとしては、彼女が何の話をするつもりか確認しないでおこうと心に決めていた。とはいえ大体の話の目星はついている―――フォーラの記憶からは消え去っているものの、以前『闇の魔術の防衛術』の教室でフォーラがドラコに好意を伝えて来たのだ―――。そのためドラコは今日もし指定の場所に行けば、今度こそ改めてフォーラから告白されることになると思った。
ドラコはフォーラの気持ちを受け入れるつもりはなかったし、彼女の一方的な約束の場所に出向くつもりもなかった。確かに彼女の隣はドラコにとって喉から手が出るほど欲しいポジションだった。しかし手に入れてしまえば最後、彼はいつかきっと死喰い人と無関係のフォーラを今後の争いに巻き込み、傷付けてしまうと感じていた。
いくらその争いが、魔法界を純血が統括するという古くからの正しい姿に戻すためとはいえ、そうなるまではきっと死喰い人とダンブルドア側の大人たちの間に危険な火花が散るだろう。ルシウスからはドラコ自身が巻き込まれる可能性を伝えられているだけあって、フォーラがもしドラコの恋人になれば、一層彼女にも火の粉がふりかかる可能性が高まるのは確実だった。
そうは言っても、ドラコはフォーラが今日伝えようとしている言葉をこの五日間考えない日はなかった。そしてその度に、彼は自分の意志に固く紐を結び直さなければならなかったし、胸の辺りが燃えるような熱を帯びる苦しみにも耐えなければならなかった。

さて、指定時間である十四時少し前、フォーラはパンジーとルニーに談話室で別れを告げた。この季節は雨が頻繁に降っていたが、今日はそんなこともなく良く晴れていた。とはいえまだまだ寒い季節ではある。彼女は校庭の久しぶりに乾いた土や、枯れた芝生を踏みしめながら湖のほとりに向かい、冷たい風を感じつつベンチに腰掛けたのだった。
ここに来る前、パンジーとルニーからは待ち合わせ場所をもっと暖かいところに変更してはどうかと何度か提案された。しかしドラコがフォーラを避けている以上、彼女は寒さでさえドラコが少しでも自分に哀れみや慈悲の心を向けるきっかけになれば良いと思ったし、それによって彼女の話を聞く気になればと考えていた。

フォーラはドラコが来るのを待つ間、『双子の呪文』を練習することにした。エメリア・スイッチの『ポリジュースの呪文』―――杖だけでいつでも特定の相手に変身できる術―――を習得するにあたり、双子の呪文を満足に扱えるようになる必要があったのだ。
双子の呪文は対象の物を複製することができるのが特徴だ。二つにすることもできるし、数を無限に増やすこともできる。術者が増殖のプロセスを停止させるまで増え続けるのだ。但し増えた物は贋作で、時間と共に色あせたり劣化してしまうという特徴もある。
フォーラは何を増やそうか考えた後、杖を振ってある物を用意すると練習を始めた。

「ジェミニオ!」

その頃ドラコは図書室に入ったところで、フォーラの指定した時刻をとっくに過ぎていることを壁掛け時計で認識した。彼は心苦しさこそあったものの、やはり彼女の元に行くという選択肢を持ち合わせていなかった。
ドラコはこの寒さの中フォーラを待たせるくらいなら、いっそのこと彼女の元へ行って、さっさと彼女の好意を断ればいいのではとも考えた。しかし彼女から面と向かって告白を受けた場合、きちんと拒否できる自信がなかったのだ。随分卑怯なことだと自覚していたものの、彼の『フォーラを自分から遠ざけて守る』という意志を保つためには仕方のないことだった。

(雨でなくて本当によかった。もし降っていたら、こんなに潔く図書室に来られなかっただろう)

ドラコは書棚から本を幾つか選んだ後、座席の方を見た。彼は一番窓に近い席が目に留まった―――そして悩んだ末にその席に腰を落ち着けた。この席からは十分に校庭の湖を見渡すことができた。ここに座ればもしかするとフォーラの姿が見えるかもしれない。ドラコは彼女の元へ行く気はない一方で、寒い外気に晒されている彼女を心配せずにはいられなかったのだ。
ドラコが窓越しに湖の方を見てみると、ほとりにフォーラらしき人物の姿を捉えることができた。ベンチに座っているその人は十分に暖かい格好をしているように見え、暇をつぶすように杖を振って何かをしていた。その姿を見て、ドラコは胸が痛むと同時にホッと胸を撫で下ろした。
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