不死鳥の騎士団

□You are very special to me: 1st volume
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フォーラが四階の空き部屋で倒れた日から数日が経った。今、フォーラは図書室にある禁書の棚に続く格子扉の前に立っていた。彼女の手には、禁書の棚に入るための許可証が握られていた。そこにはスネイプのサインが書かれている。
ホグワーツで普通に学生生活を送っていれば、そうそう禁書の棚に足を踏み入れることはないだろう。あるとすれば、相当勤勉な生徒が勉学の為に一般利用の棚を読み漁っても満足できなかった時か、もしくは悪事を働こうとする生徒が禁じられた魔法を求めている時のどちらかだ。
フォーラは司書のマダム・ピンスから借りた鍵を使い、禁書の棚に続く格子扉を開けた。一般利用の本棚と禁書の棚は鉄格子で区切られているのもあり、普段から禁書の棚の雰囲気を遠目から見ることはできた。しかしこうして中に入って近くで数々の棚を見ると、一般利用の棚より物々しい雰囲気の背表紙や、如何にも怪しさ満点の古めかしい本が沢山並んでいることが顕著に見て取れた。
フォーラは入り口から比較的近い場所に、先日セオドールが話してくれた『今日の変身』という雑誌のバックナンバーを見つけた。彼が言うには、一般利用の棚から溢れた古い雑誌はこの棚に閉まってあるようだ。フォーラが探している人物の論文も、この中のどれかに載っているのだろう。
彼女は1926年発行の雑誌の中から、変身術の教科書の著者である『エメリック・スイッチ』が書いた論文がないか一冊ずつ確認した。フォーラの父親は何故『エメリック・スイッチ』と名前の似ている『エメリア・スイッチ』の名を自分の手記に走り書きしていたのだろう?スイッチ氏の論文を見れば、何か手がかりが掴めるだろうか。そのように考えていた時、一冊の雑誌の中から彼女が探していた『エメリック・スイッチ』の論文をとうとう見つけた。
フォーラはその内容に目を通した。確かにこの雑誌に掲載されるだけあって素晴らしい論文ではあるのは間違いなかったが、その内容はどうやら彼女が求めているものではなさそうだった。ようやく彼の名前が書かれた論文を見つけたのに、とフォーラが肩を落としながら何の気なしに次のページをめくると、彼女はその中に彼の紹介文も載せられていることに気が付いた。そこに目を走らせてみると、彼の出身地や功績が記載されていたのだが、一部彼の先祖の話について触れられていた。

『―――スイッチ家は代々変身術に長けた家系であり、何百年も前に一時家名をあげた実績があった。しかし、エメリック・スイッチの随分前の先祖にあたる魔女、エメリア・スイッチの汚名があって以来、この家系には最近まで大きな実績を残した魔法使いや魔女はいなかった。』

フォーラは図書室の数多の本を開いてきたが、エメリア・スイッチの名前を見たのは今回が初めてだった。探していた人物の名前をようやく見つけられたことにフォーラは思わず目を輝かせた。しかしそれと同時に、雑誌に記載されているエメリアの汚名が何なのか気になった。フォーラは雑誌の続きを読んだ。

『彼女の汚名については現存する資料は殆ど残っていないが、言い伝えは二つある。
一つは彼女が産んだ子の中に、スクイブ(魔法族の家系でありながら魔法の使えない人間)がいたという噂。当時のスクイブは現在よりも忌み嫌われていた面が非常に強く、時代が違えば彼女が強く非難されることはなかったかもしれない。
先述のことはさておき、もう一つは変身術に関わることだ。彼女が魔法薬とほぼ同じ効果のある強力な変身術を編み出し、それを世に公表・出版した。しかし誰一人としてその変身術を再現できなかったこと、加えてその術が禁術に分類されかねないことから、当時の研究者たちから大反発を受け、彼女は学問会から冷遇されたと伝えられている。また、それが彼女の資料を極端に希少化させた理由とも言われている。
そんな中、今回エメリック・スイッチが寄稿した論文や彼のこれまでの活動成果を見れば、彼が数百年ぶりに家名をあげたのは誰が見ても間違いないだろう。特にこの論文の中で最も重要な要素として―――』

フォーラは彼女の父親が何故手記にエメリア・スイッチの名前を走り書きしたのか合点がいった。シェードもきっとこの雑誌に目を通したに違いない。『魔法薬とほぼ同じ効果のある変身術を編み出し―――』……この点が正にシェードの求めていたことそのものだったからだ。しかしこの雑誌にはエメリアについてそれ以上の記述はなかった。加えて彼女の公表した書物は随分希少だと書かれている。そんな何百年も前に絶版し、闇に葬られた資料がこの図書室にあるかどうか、正直言って望み薄だと思った。
ただ、このホグワーツの図書室というのは、魔法界の中でも一・二を争う蔵書数を誇っている。数万にのぼる本の中には絶版しているものなど腐るほどあるだろう。そういう期待もあって、フォーラはエメリアの本を呼び寄せ呪文で取り寄せようと試みた。
しかしフォーラが何度呪文を唱えても、彼女の手元に目当ての本が飛んでくることはなかった。きっと父親の手記にエメリアの名前以上の情報が綴られていなかったのは、そういうことだったのだろう。この図書室にはエメリアの本はなく、シェードはそれ以上の情報を得られなかったということだ。

フォーラは少々落胆しながらも、せめて手に持っている雑誌は借りて、後でまた読み返そうと胸に抱きかかえた。そして彼女は初めて禁書の棚のエリアに入ったのだし、せっかくなら一通り歩いて見て回ろうと思い立った。幾つも並んだ棚の間をゆっくりと歩きながら辺りを見渡すと、本当に古い本ばかりが並んでいたし、背表紙のタイトルも怪しいものが多く見受けられた。彼女は幾らか興味をそそられた本を開いてはパラパラと捲ってみた。そうして彼女がそろそろ禁書の棚の鍵を返却しようと、一つ隣の本棚に足を踏み入れた時、ふとその棚の何処かから魔力のような目に見えない何かが微かに漂っているのを感じた。
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