不死鳥の騎士団

□Draco's own will
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尋問官親衛隊のパトロール中に四階の廊下にいたドラコは、偶然にも空き部屋に倒れているフォーラを見かけるや否や、勢いよくそのドアを開けて彼女の元へ駆け寄っていた。ドラコは、自らがフォーラに関わらないよう努めていることを忘れてしまいそうになる程、取り乱していた。

「フォーラ!」

ドラコは床に倒れている彼女の上半身を、少しばかり起こすようにして腕の中に抱き留めた。彼は何度か彼女の名前を呼んだが、彼女の意識は無いままだった。しかし息は普通にしている様子だったため、彼は一先ず安堵のため息を漏らしたのだった。

(兎に角、早くなんとかしないと。突然倒れるなんて、どうして)

ドラコは開かれていた教科書に視線をやったが、特段彼女が失神呪文の類を練習していたようには見えなかった。強いて気になったことと言えば、今習っている範囲よりも随分レベルの高い変身術のページが開かれているということくらいだろうか。

(そういえば、五年生になってからのフォーラはこれまで以上に勉強熱心だった。パーキンソンたちからも随分心配されていたのを覚えてる。
それなのに皆んなに隠れて、こんなところで試験の範囲でもない呪文の練習までしていたなんて。どうしてそこまで頑張っているんだ?
今までだって何度か無理が祟って身体を壊したことがあっただろう。君はそこまで強靭な身体の持ち主じゃないことをまだ分かっていないのか?)

ドラコがフォーラの顔にかかった髪を退けるようにして撫でると、少しだけフォーラの表情が和らいだ気がした。ドラコは久しぶりに、しかもこんなにも至近距離でまともに彼女を見て思わず動機がした。

(君に見せている僕が、全部嘘偽りだと打ち明けられたら……どれだけいいか)

ドラコは杖を振ってフォーラの荷物を纏めると、彼女を自分のローブに包んで抱き上げ、部屋を後にしたのだった。



フォーラが目を覚ますとそこは何度か見た覚えのある部屋で、羊皮紙とペンの擦れる音や、暖炉の日がパチパチと小さく爆ぜる音も聞こえた。彼女自身はソファに毛布を被って横たわっていたのだった。

(ここは……?それに私、確か四階の空き部屋で———)

そこまで考えてフォーラはハッとして勢いよく起き上がった。辺りを見渡すとすぐ向こうの文机に、黒装束を身に纏った見覚えのある後ろ姿が一番に目についた。

「セブルスさん?」

声をかけられた黒装束のその人は、手にしていた羊皮紙から視線を上げて振り返った。彼はフォーラを見て小さくため息をつき、椅子から腰を上げたのだった。

「ようやくお目覚めかね。体調はどうだ」

「ええと、私……」

スネイプの言葉を理解するまでほんの少し時間が必要だったが、フォーラは自分が目を覚ます前に、四階の空き部屋で意識を失ってしまったことを思い出した。

「あの、もしかして……セブルスさんが私を助けてくださったのですか?」

スネイプはフォーラを見ていた視線を軽く逸らし、彼女の向かいのソファに腰掛けながら相槌を打った。

「左様」

少し時間は遡る。スネイプは、小一時間前にドラコがフォーラを抱えてこの部屋を訪れてきた時のことを思い出していた。
ドラコはスネイプに対して、フォーラを何処で見つけ、彼女が何をしていたかも説明したのだった。

「しかし、何故医務室ではなく吾輩の部屋へ?」

スネイプがドラコにそのように尋ねた。彼はフォーラをソファへ寝かせ、蘇生呪文をかけ終えたところだった。

「それは……。フォーラを抱えているところを誰にも見られたくなかったんです。医務室は辿り着くまでに人通りが多いですし」

スネイプが訝しげにドラコを見やると、ドラコが彼から視線を外して続けた。

「僕は今、フォーラに随分冷たく当たっています。僕は彼女に嫌われたいし、彼女を嫌いたいんです。
それなのに、もし僕が彼女を助けるところを誰かに見られたら、人伝にそのことを彼女が知ってしまうかもしれない。そうなったら、今までの僕の態度が水の泡だ」

五学年に上がってから、ドラコがフォーラを避けているのは明らかだった。しかし、スネイプはその理由を明確には把握していなかった。

「何故そこまでする必要がある?」

「それは……」

ドラコは自分の考えを打ち明けようか迷った後、そうせざるを得ない状況に、意を決して口を開いた。

「僕がいつか闇の陣営側に加担して戦うことになっても、彼女が幼馴染の僕のことで悲しまないようにするためです」

ドラコの言葉にスネイプは片眉を釣り上げた。

「ドラコ、もしや闇の帝王にお仕えする気なのか?ルシウスが勧めたのか」

「別に勧められたわけではありません。それに、闇の帝王に仕えるのかどうかも、今はまだ正直分かりません。
とはいえ、僕は父上の『マグルを排除すべき』という考えには、賛同しているんです。魔法族の純血を守る———マルフォイ家に長く続く伝統を守るには、それが確実ですから」

ドラコは深く息継ぎをして続けた。

「だけど、マグル擁護派は必ず対抗してくる。今まさにそうですよね?
……父上には、いつ戦争になってもおかしくないと教わりました。そうなったら僕が闇の帝王に仕えていなくても、父上が戦う限り僕もきっと加勢することになる。
その時に備えて、自分の弱みを作るなとも言われています。奴らに僕の弱みを突かれることが無いように……。
僕の弱みは、フォーラなんです」

ドラコの瞳に、静かに寝ているフォーラの姿が映り、それと同時に彼の胸のあたりが疼いた。彼はなるべく彼女を視界に入れないようにしながら続けた。

「それなら今の内から彼女と距離を取っておけば、僕の気持ちもいつか彼女から離れるかもしれない。
それに、彼女が僕に嫌われたと思って完全に離れてくれれば、無関係の彼女はきっと巻き込まれない。そう思ったんです。
……まあ、前者は思い通りにいきませんでしたが。

だから先生、どうか僕がフォーラをここへ連れてきたことは黙っていて欲しいんです。図々しいお願いだということは分かっています」
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