不死鳥の騎士団

□A hair accessory of narcissus
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ファントム家でのクリスマスパーティーも佳境を迎え、来客はもてなしに大変満足した様子だった。フォーラはこのパーティーに不死鳥の騎士団のメンバーが変装して潜入していることや、敵対するヴォルデモート側の手下である死喰い人も同様に混在していることを知っていた。それだけに何かが起きるのではと不安視していたものの、一先ずこのパーティー中については杞憂で終わりそうだ。
それから暫くして、この日のパーティーはお開きとなった。フォーラやファントム家の一同は招待客に一人一人お礼の言葉をかけて見送りをした。その中にアレクシスと同僚の姿を見つけ、フォーラは笑顔でお礼を言った。

「お二人とも、今日は遠いところからお越しいただいて、本当にありがとうございました。
アレクシスと久しぶりに会えてとっても嬉しかった!」

「ゔぉくももちろん嬉しかったよ」
アレクシスがにこやかにそう伝えると、彼の会社の先輩が隣で笑いを堪えるように言った。

「ミス・ファントム、アレクシスはこんな涼しい顔をしているけど、今日ここに来るまでに彼は身なりと英語のことで「大丈夫かな?」と僕に何回も質問してきたんです。
それくらい内心は貴女に会うのに緊張していたみたいですよ」

アレクシスはそれを聞いた途端にブワッと耳を赤くして、同僚にブルガリア語で捲し立てた。フォーラには彼が何を言っているかは分からなかったが、とにかく恥ずかしさを隠そうと焦っていることは読み取れた。

「大丈夫?」

「え!あー、ええと!なんでもないよ」
アレクシスが急いで同僚を追払いながらそう言ったものだから、フォーラは思わずクスッと笑った。

「アレクシスの英語は本当に上手よ。何度でも褒めたいくらい!
それに、前よりも大人な雰囲気になっていて、私はとっても素敵だと思ったわ。
将来のことで相談にだって乗ってもらったし、こんなに素敵な人とダンスも踊ってもらえて、本当にラッキーだったわ。ありがとう。」

アレクシスは思わず幸せを噛み締めるようにフォーラを見た。彼女から見た彼はまるで大型犬のゴールデンレトリーバーが尻尾をブンブン振って、何とか嬉しさに耐えているような感じだった。

「……Обичам Те, フォーラ」

「オビ……?ごめんなさい、何と言ったの?」
アレクシスが勢い余って呟いた異国の言葉をフォーラは当然聞き取ることができなかった。

「ううん、何でもないよ!ありがとうって言ったんだ」
アレクシスは先程より耳を赤くして笑顔を返した。
「それより!実はフォーラにクリスマスプレゼントがあるんだけど。うけとってくれるかな?」

「え!そうなの?
ごめんなさい、私、アレクシスが来てくれると思っていなかったから、何も用意していなくって……」

「ぜんぜん大丈夫だよ。フォーラ、手を出して」

フォーラが両手を差し出すとアレクシスは杖を振った。するとピンクと白が美しい薔薇の花束がポンと音を立てて現れた。

「わっ、!」

フォーラは慌ててそれをキャッチすると、互いに顔を見合わせてクスリと笑った。去年の冬、ホグワーツにてアレクシスが全く同じ方法でフォーラへ花を送ったことを二人共思い出したからだ。あの時は鮮やかな紫色のクロッカスの花をプレゼントしてくれていた。

「とっても立派な薔薇ね!こんなに素敵なもの、本当にいただいてもいいの?」

「もちろんだよ!フォーラのために用意したからね。ゔぉくの国はバラがとっても有名なんだ」

「ありがとう……。大切に飾るわ。
それから、必ずお返しの品を送るわね。」

フォーラが薔薇の花束を大事に抱きかかえてお礼を言うものだから、アレクシスは自然と柔らかい笑顔になっていた。

「あれ?」

すると不意にアレクシスが何かに気づいたようにフォーラの髪を見た。

「フォーラ、髪にナルキッソスの花が……」

「えっ?」

アレクシスに言われて初めてフォーラが自分の髪に触れると、確かに数本の花が結った髪に挿して飾られている様子だった。アレクシスにその内の一本を引き抜いて見せてもらうと、それは黄色いナルシサス(ラッパ水仙)だった。彼女のネイビーのドレスとのコントラストが美しい可愛らしい花だが、今日は髪に生花など飾っていない筈だ。

「まあ。これも、もしかしてサプライズかしら。」
フォーラがクスクス笑いながらアレクシスにそう言ったが、彼は困惑した様子で首を横に振った。

「ううん、残念ながら、ゔぉくじゃないよ」

「え?じゃあ、一体誰が……?」

フォーラはあたりを見回し、たった今飾られたであろうナルシサスの送り主と思しき人が周囲にいないか確認した。しかしアレクシスのような彼女に近しい来客は辺りにはおらず、両親との親交が深い人達ばかりだった。この中の誰かが贈ってくれたのだろうか。
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