不死鳥の騎士団

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この日、子供たちはモリーから仰せつかった掃除を終えたところだった。フォーラもその内の一人で、上階に繋がる階段を皆んながバラバラと上っていく一番後ろを歩いていた。そして彼女は最初の踊り場に立った時ふと立ち止まり、横に続く廊下の方を無意識のうちに見つめた。皆んなはそれに気づかずに上階へどんどん向かって行った。フォーラは皆んなの声を見上げ、そしてもう一度廊下の方に視線を向けた。そして再び上階へ続く階段に視線を向けた後で、彼女は客間に続く廊下に脚を運んだのだった。
客間に入ったのは何日かぶりのことだった。シリウスに見つかって以来立ち入ってはいなかったが、フォーラは以前もしたように何かを覆い隠している長いカーテンを開けた。現れた大きなタペストリーは相変わらず所々にわざと付けられた黒い焦げ跡を残していた。
こうして今これを目の前にするまでの数日間、フォーラはこのタペストリーが頭から離れなかった。自分でも理由はよくわからなかったが、特に自分の両親やドラコの名前、そして自分の名があったはずの焦げ跡を見ていると妙な違和感を感じずにはいられなかった。しかしその違和感よりも、このタペストリーが自分とその周りを隔てているのを視覚的に表して心の中を掻き乱す方が優っていた。目に入れたくない筈なのに、何かを確認するかのように意識がタペストリーに向いてしまう。まるで眺めていれば自分の名が焦げ跡の中から浮かんでくるとでも言うように。
フォーラが自分の名があったはずの場所をなぞった時、背後でガタッと何かが動く音がした。フォーラは咄嗟に振り返ったがそこには何もいなかった。ただ一つ目に止まったのは、視線の先でガタガタと音を立てている古い文机だった。どうやら音の元凶は文机の引き出しで、フォーラはその中に何か動物でも入っている気がした。そして彼女はそちらに近づくと、そっと手を引き出しに近づけてゆっくりと引いたのだった。
突如として白っぽい靄のような風が引き出しの隙間からバッと抜け出した。フォーラが驚いて咄嗟に飛び退くと、それは部屋の中央で素早くグルグルと螺旋を描き、あっという間に別のものに姿を変えて床に落ちたーーーというより倒れ込んだ。

「ーーーー!!!!」

フォーラは目の前の光景に声にならない悲鳴をあげた。そこには血塗れになって青い顔で折り重なるように倒れている両親の姿があった。フォーラは余りに恐ろしい光景に思わず後退り、よろめいた勢いで文机にぶつかって床に倒れ込んだ。

「あ・・・ああ・・・」

フォーラは上体を起こしたが脚がいうことを聞かずビクともしなかった。驚きすぎて腰が抜けてしまったようだ。どうしよう。私の大切な人達がこんなにも死にそうになって目の前に倒れている。どうしてこうなったかなんてどうでもいい。早く何とかしなくては、早く・・・。

「と、父様、母様・・・?ねえ、二人とも・・・」

どちらも彼女の声に反応しない。このままでは二人とも死んでしまう、いや・・・、彼らは全く動かない。それはもしかして、最早死んでいるということ・・・?

「そん、な・・そんなこと・・・」

フォーラは床を這うようにして震える脚を無理矢理引きずって両親に近づいて行った。そして声にならない声を喉の奥から無理矢理絞り出した。

「いや・・・ねえ・・・どうして・・・・ねえ・・・!
だ・・・だれか、だれか」

その時フォーラの後ろ手に「誰だ?」という声が聞こえたと思うと、その人物は彼女が開けたままだった入口の扉から姿を現した。フォーラは金縛りにあったように目の前の無残な光景に釘付けで振り返ることが出来なかったが、彼女の後ろでその誰かがハッと息を呑む音が聞こえた。そしてその人は目の前の死体と、床にへたり込んだフォーラの後ろ姿、そして文机の開いた引き出しを交互に見た後でフォーラの横まで掛けてきて「リディクラス!」と呪文を唱えた。すると折り重なった死体はたちまち風となって螺旋を描き、その姿を白い満月に変えた。そしてルーピンが杖をもう一振りすると、月はたちまちパチンとシャボン玉が弾けたように消えて無くなってしまったのだった。
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