不死鳥の騎士団
□escapism
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「もうすぐ屋敷に着きますからね。
長旅で疲れたでしょう」
キングス・クロス駅でパンジー達と別れたフォーラは両親に連れられてマグルのタクシーに乗り込んだ。暫く郊外を走り、街の中心から離れた人気のない場所で降車するところだった。
「ええ、少しだけ。でも、平気よ。」
フォーラは母親に笑顔を向けた。彼女も笑顔を返すと運転手にマグルの通貨を支払った。タクシーを降りて、車が行ってしまったのを確認した後で、そこからすぐのこじんまりとした廃墟へ入った。ここに魔法使いがよく煙突飛行に利用する暖炉がある。マグルは廃墟に目もくれないため一切寄り付かない。
フォーラは両親と顔を合わせても、以前ホグワーツで二人に会った時と同じ様に振る舞った。彼らと血が繋がっていないなんて、大したことではない。そんな素振りだ。でも本当はそうではなかった。あれ以来両親を思い出す度に突然あかの他人になってしまった様なそんな感覚が自分を襲った。
こうして改めて二人を目の前にすればそんな幻覚から目が覚めるのではと期待した。だが願いは虚しく、優しく声をかけられる度に同じ事が頭を駆け巡った。
(マグル生まれの自分と純血の彼らは違う。いくら両親がマグル生まれを受け入れようが、二人の周りがそれを許さない。
そして自分はその人達にこれまでもこれからも、マグルの子である事を知られてはいけない。本当の自分を知られずにいなければいけない。「例のあの人」が復活した状況下では、両親の邪魔にしかならない存在なのだから)
フォーラは古びた暖炉の前でフルーパウダーを軽く一掴みした。手の隙間からサラサラと少し粉がこぼれ落ちていた。
屋敷に帰るのが怖い。メイドのマリア達は真実を知った自分にいつも通り接しようとして来るだろう。両親の様に。そして仮に心配そうにされたとしても、自分はいつも通りに振る舞おうとするのだ。
屋敷の誰に何を聞かれても、自分の本当の気持ちを伝えてはいけない様に思った。伝えたが最後、両親は嘆き、従者達は余計に自分にどう接すればいいかわからなくなるだろう。
(両親が他人にしか思えないなんて伝えて、その後は?
・・・きっと、悪いようにしかならないもの)
フォーラは暖炉に入ると振り返り、灰の溜まった床に粉を振りかけた。エメラルド色の炎の中、彼女は目の前の両親の顔を見ずに自分の屋敷の場所を唱えた。
屋敷に着いてからの日々はいつもと何ら変わりなかった。両親は勿論、屋敷の使用人も、今回初めてフォーラが養子のマグル生まれと知ったマリアですらいつも通りだった。
マリアなんてお手製のドレスローブ姿の写真を撮り損ねたと伝えたら、想像通り悔しがっていた。正直、それには少しホッとした。あの心配性のマリアがこんなにも落ち着いていたからだ。
ただ、自分のドレスローブ姿の写真を撮り忘れたお詫びに買った写真立てをマリアに渡す気にはなれなかった。この写真立てには自分が帰ったら屋敷の人たち全員で一緒に写真を撮って、それを飾ろうと言うつもりだった。
今の自分は、以前と同じ様に彼女らを「家族」と言うことは出来なかった。
フォーラはマリアに写真立てを渡せなかった自分への嫌悪感に押し潰されそうになってベッドにうつ伏せに倒れ込んだ。
(どうして、私・・・。皆きっと気遣ってくれている。それだけ私のことを気にしてくれている人たちなのに、どうして・・・。
それに私、ホグワーツで母様と父様に「大丈夫」って、そう言ったわ。だからそれを信じてくれているのよ)
フォーラはじっと目を閉じた。
(こんなに温かいのに、どうして安心出来ないの。
もちろん、知られては行けない人に私の秘密がばれたらと思うと怖い。この先邪魔でしかないことだって、何回も考えたわ。でも、ホグワーツで父様も母様も愛していると言ってくれた。)