炎のゴブレット

□my wonderful person
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それからの日々は本当にあっという間に過ぎ去り、気がつけばもう4年生を終える最後の日を翌日に控えていた。皆明日に向けて次第に荷物をトランクに詰め始めていたし、フォーラもその中の1人だった。
毎年恒例の荷造りも今年はいつもと違っていた。自分の中のもやもやとした混沌を、他の荷物と一緒にトランクに詰めなければならなかったからだ。
勿論楽しい思い出だって沢山あった。しかしルニーやパンジー、他の寮生が同じように荷物を整理しながら今年一年を楽しげに振り返っていても、フォーラは心から笑顔になることは出来なかった。
とは言えそれでもこれまでの4年間を一緒に過ごしてきた友人に変わりなかった。ただ、心の奥の引っ掛かりが、どうしても自分と彼女達を線引きしてしまていた。

それに、明日になれば両親と顔を合わせる事になる。明るく振舞って別れたのに、本当は彼らを心から親と思えないもどかしさと虚無感を抱えていると、両親にどう説明できよう?

先日、フォーラが夏休みの間にウィーズリー家の世話になることについて、ダンブルドアの了承の上スネイプからウィーズリー夫妻とフォーラの両親に伝わったそうだ。両親にはスネイプから「本人は元気そうだが、とはいえ少し時間を与えてやってはどうか」と、あくまで彼の提案としてふくろう便を寄越したらしい。
両親の返事はYESだった。フォーラもその手紙を見せてもらったが、その文面からは彼らの本心を読み取ることはできなかった。
スネイプがなるべく深刻でない風の文面を送ったからだろうか。フォーラは彼らが頷いた事に少し胸を撫で下ろしたものの、その中に自分への心配がどれだけ混じっているのかと考えると少し胸が痛んだ。


ウィーズリー夫妻はフォーラについて快く引き受けてくれるそうだった。2人に自分の事情を知られてしまうのは覚悟していたが、おそらくフレッドやジョージ達にもそのうちにそれが伝わらざるを得ないのだろう。

フォーラは妙な胸のざわつきと焦りに気づいた。
ジョージ達が自分のことを知ったとして、彼らはきっとそれを受け入れてくれるだろう。純血主義を嫌う彼らならそうに決まっていた。しかし、はたして彼らは何時も通り接してくれるだろうか?
両親から距離を取りたい一心で、どうしてそのことを考えなかったのかと後悔した。正直、もし変に気を使われたり酷く同情されでもしたらどうすればいいかわからない。それもあってフォーラは本当にウィーズリー家に加わってもいいのか悩んだーーーしかし夏休み中よくわからない気持ちのまま両親と過ごすより、整理をつけるためにもその方が良いのだと結論づけるしかなかった。


現実から逃げているだけ?


ふとそんな声が自分の頭をよぎった。

(逃げてなんか・・・。ただ、私はそうした方が、セブルスさんの言うように心の整理がつくと思って)

自分で言い聞かせているつもりなんてなかった。ただ、心の底では、両親や純血からの逃避を認めたが最後、自分のこれまでをも否定するのと同義であるとわかっていた。





「フォーラ」

「!」

年度最後の宴会を終えた大広間を人混みと共に出た時、フォーラは今日初めてドラコが自分の名を呼ぶ声を聞いた。


今日の彼女は日がな一日パンジーとルニーと女子寮で荷造りしたり、余った時間は談話室で談笑していた。談話室ではいつドラコが現れるだろうと気にしてーーーいや、そわそわしていたが、彼の姿を見ることはなかった。最近はドラコにどんな風に接すればいいかわからないのを隠して気を張っていたが、今日が城で過ごす最後の日というのもあって、流石の彼女もドラコと何かゆっくり話せないかとほんの少し期待していた。ドラコが恐くもあったが、それでもやはり彼を好きだという気持ちは変わらず持っていた。
こんな矛盾した気持ちに嫌気が指していたが、どうにもならなかった。

そしてフォーラがこの日初めてドラコを目にしたのは先程の夕食前で、彼女達が大広間に入ろうという時だった。日の終わりが近づき諦めかけた時に急に待ち侘びた人が現れたからだろう、彼女の心臓は早鐘を打った。
城の最後の夜にようやく合流したドラコはパンジーに雑談を投げかけられたところだった。フォーラは何か挨拶を交わそうとしたが、「マグル生まれの私」が彼に声をかける勇気が出ないのと、タイミングを見失ってしまって何も言えなかった。
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