炎のゴブレット

□primerose with her worries
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もうあと数日で学年末試験が始まろうとしている。試験の最終日に行われる第三の課題を皆楽しみにしていた。だが同時に彼らは自分達の試験を終わらせない事には最後の楽しみに有り付けないという事態に絶望していた。

フォーラもドラコも、互いにもう完全に以前同様表面上はいつも通りを装っていた。しかしフォーラはドラコが倒れた日の彼の様子が未だに気にかかっていたし、その後の彼の態度にもやはりどこか余所余所しさを感じずにはいられなかった。
なるべく試験勉強に集中して余計な事は考えないよう努めても、あの日のドラコが時折思い出されて、そのせいで彼女の教科書をめくる手は度々止まった。

医務室で二人きりだったあの日、ドラコはフォーラに伝えようとしていたことを「忘れてくれ」と言った。

本当は・・・何を言おうとしていたのだろう。彼の隠しきれていない余所余所しさの理由がそこにあるのではないだろうか?

そう思うと確実に以前より自分達の関係はぎこちないと感じた。フォーラは近いうちに、と思っていた彼への想いを口にするのが知らない内に何かに憚られている様な気がしてならなかった。




「私、少し休憩してくるわ。」

休日のこの日、皆が試験勉強に取り組んでいる談話室でフォーラは友人達にその様に声をかけた。ルニーもパンジーも顔を上げて彼女を見ると、勉強に必死な彼女達は「わかったわ」と返事をして再び机にかじりついた。
ドラコも遅れて顔を上げたが、その頃にはもうフォーラは出口に向かうところだった。

「・・・フォーラ」

「!」

途端にフォーラが足を止める。彼女は振り返るとドラコの目を見て首を傾げた。

「どうしたの・・?」

「あ、・・・いや、遅くなるなよ」

「・・ええ、大丈夫。それじゃあ、また後で。」


ドラコは笑顔で踵を返したフォーラが廊下へ続く扉を出るまで自然と目を離せなかった。彼が再び机の上の羊皮紙に視線を戻しても、去り際のフォーラの微笑んだ顔が頭に浮かんで集中できなかった。

(本当は、僕も行くと言いたかった。だけど・・・わざわざ二人きりになって何か上手く話せる自信なんて、今の僕にはない)

先程のフォーラの笑顔も、彼女が何処か彼自身から一歩引いている様な、そんな風に思えてならなかった。それは勿論彼が父親からの手紙によって彼女にどう接すればいいのかわからなくなっている所為でもあった。

(僕に戸惑いがあるから、でもフォーラはその理由がわからなくて、そのせいでどう接すればいいかわからなくなっているんだろう)

しかし、父親の手紙に従うならきっとこのままで良い筈なのだ。もしかすると、このまま彼女と今の様な距離でいれば、知らず知らずの内に自分はフォーラを元の"ただの"幼馴染としてみられる様になるかもしれない。
少なくとも、今はそんな事はなくても・・・いずれ。
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