炎のゴブレット
□robe
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一方その頃ジョージは偶然温室に着いたところだった。次のいたずらグッズ作製の為に必要な物を買う参考に、サンプルとなる薬草を少しだけ貰いに来ていたのだ。
(ちょっと弱めの痺れを起こすやつが幾つかあった筈なんだよな。どの辺だったっけ)
幾つも並んだプランターや大きな実を付けた木の間を縫って歩く。きょろきょろと辺りを見回しながら奥まで進んだ時、草木の陰になった場所に置かれた机に誰かが突っ伏しているのが見えた。
(誰だ?こんな12月の真っ只中に、いくら温室だからって寒いだろ)
興味本位でそちらに向かう。すると暫くしない内にすぐその人が誰なのかわかった。見慣れた髪色、それに伏せた腕に隠れてはいたが顔が少し伺える。
「っな、」
(ど、どうしてフォーラがここに)
思わず動揺してしまう。上体を机に預けたまま動かないところを見ると、もしかしたら寝ているのかもしれない。
周りには誰もいない。ジョージはフォーラに連れがいない事を悟ると様子を伺うようにして彼女に近づいた。
「・・・フォーラ?」
声をかけても返事はなかった。ちらりと覗く片目は閉じられていたし、背中はゆっくりと上下し、深い呼吸をしていることがわかる。
(これは、起こした方がいいのか?それともそのままにしとくべきか・・・。
・・・ん?なんだ?)
ジョージはフォーラの目元を見てふと気付いた。涙の跡があるのだ。少し睫毛が湿っぽい。それに目元も赤い。つい先程まで泣いていたということだろうか。でも、どうして。
「・・・」
ジョージはフォーラのいる机の側にあるもう一つの椅子に座ると、彼女の顔を恐る恐る覗き込んだ。
(何があったんだ・・?
ここで、一人で泣いてたってことか?
・・・)
わざわざこんなところに来て泣くなんて、何か相当な理由があるのだろう。理由はわからないがそう思うと何だか胸が痛い。
いつも力になりたいと思っている。しかし全部というわけにいかないのも十分にわかっている。ただ自分の想っている人が自分の知らないところで辛い思いをしていることに、心配が込み上げて勝手に辛くなってしまう。