番外編

□薔薇園の二人
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8月の昼下がり、太陽の熱と光がサンサンと降り注いでいた。夏らしい生き生きとした緑色の生垣が高くそびえ、それになぞって行くと先には重厚に構えた格子調の門が立っていた。奥に大きく佇む屋敷が伺える。まるで随分高貴な誰かが住んでいるのを容易に思い浮かばせた。
フォーラは初めてここに連れてこられた時のことを全く覚えていなかったが、物心着いてからはよく覚えている。白が基調の屋敷はずっしりと構えており、イギリス正統派のシックスパネルの玄関扉をくぐると広い空間が広がっている。そこから奥に見える階段を上がって真っ直ぐ行くとドラコの部屋だ。彼の部屋はいつもこざっぱりしている。装飾といえば壁にかかった数枚の絵と、横長の背の低いキャビネットの上に華奢な銀細工がいくつか。それから文机に立てかけられた写真縦。
他にもフォーラは一階のダイニングには立派なマントルピースが構えられていること、そこから見える庭に屋敷の中から行くには2通りの扉があること、それに外の箒置き場の場所なんかも知っている。ホグワーツに入学する前はよく両親に連れられてこの屋敷に脚を運んだものだ。そしてドラコと一緒に屋敷の中で隠れんぼしたり、庭の薔薇園を散歩したりした。ちょっとした隠し扉だって知っている。もしかしたら彼女はマルフォイ家の次にこの屋敷に詳しい可能性だってある。

白のワンピースが似合うフォーラはポートキーを旅行用カバンのポケットにしまうと門を抜け、シックスパネルの玄関扉の横にあるベル紐を引いた。すると暫くしてから屋敷の中から急いでこちらに向かってくる足音が近づいてきた。その足音は扉の向こうで少しの間ピタリと止まったかと思うと、音の主が予想よりも落ち着いた速度で扉を引いた。

「やあ、二週間ぶりだ」

ドラコは落ち着き払ってそのように挨拶した。ドラコがここへ急いでやってきたのを隠すようにして出迎えてきたことにフォーラはほんの少し笑いそうになるのを堪えて笑顔を見せた。

「こんにちは。お久しぶりね・・。
家に帰ってからは、どうだったの?」

フォーラがそう問いかけた後、特にドラコが彼女をわざわざ中へ招き入れたりフォーラが促されるのを待つわけでもなく、二人は当然のようにごく自然に屋敷の中に入った。さりげなくドラコが彼女の手荷物を取り、二人はフォーラが寝泊まりする予定の二階の客間へ向かった。彼女はこの夏休みを今日から数日間マルフォイ家で過ごすのだ。

「大したことはしてないさ。父上と母上と一緒に外食したり、ホグワーツでの身辺報告をしたり、そんなところだ。フォーラはどうだったんだ?」

「私も似ているわ。
あとは、父様が研究している魔法薬に使う材料を森まで一緒に取りに行ったり、乾燥させて刻んだり潰したりもしたの。また会社に内緒で、何か作るんですって。」

ドラコは彼女が父親の趣味の自由研究を手伝っているのをすぐに何と無く想像できた。

「そう言うと思ったよ。今年は何を作る気でいらっしゃるんだろう。去年はなんだったんだ?」
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