アズカバンの囚人

□mental conflict
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それから数日が経ち、雪が降りしきるこの日、とうとうフォーラが待ち望んでいたホグズミード休暇の当日となった。

「わあ、凄い。クリスマスカードから飛び出てきたみたいに素敵。」

目の前の光景を目の当たりにして、瞳をキラキラさせながらそう言ったのはフォーラだった。それもそのはず、ホグズミード中の茅葺屋根の小さな家や店はキラキラ光る雪にすっぽりと覆われ、戸口という戸口には柊のリースが飾られ、木々には魔法でキャンドルがくるくると巻きつけられていたのだ。ドラコは以前フォーラと一緒にホグズミードを見て回れなかった事を申し訳なく思っていたが、今の楽しそうなフォーラを見て安堵した。

「あっちには色々なお菓子が置いてあるお店の『ハニーデュークス』があって、郵便局にはたっくさん梟がとまってるわ。きっとびっくりするわよ。その奥にはバタービールの美味しい『三本の箒』っていうパブがあるわ。後で行きましょ」

パンジーがフォーラに提案すると、フォーラは満面の笑みで頷いた。

「ええ、行くわ!」

パンジーやルニー、ドラコでさえ、日頃フォーラが思い切り笑うところをあまり見ないからだろう。彼女の突然の眩しい程の笑顔に一同は少しばかり驚いたようで、特にドラコはドキリと跳ねた心臓を鎮めるのに必死だった。
それから四人でそれぞれが必要なクリスマスプレゼントを買うために、近くの手頃なギフトショップから順番に見て回る事にした。ここにいるメンバーの物を選ぶときは、お互いわざと違うお店に先に立ち寄ったりして、何をプレゼントするか内緒にし合ったりした。

「私、もうドラコのプレゼントはさっき選んできたわ!」

パンジーが笑顔でそう言った時だった。みんなで笑い合いながら道ゆく人を縫うようにして通りを見て回っていると、フォーラの足元を急に何かが通り抜けたのだ。フォーラは思わず立ち止まり、一体何とすれ違ったのか見ようと後ろを振り返った―――。

「あ……」

そこにいたのは、フォーラの声に反応したのか彼女同様こちらの方を振り返り、じっとこちらを見つめる黒い毛皮の大きな犬だった。身体はとても綺麗だとは言えなかったが、その犬は身体に似つかわしくない綺麗な瞳でらんらんとこちらを見据えていた。

「フォーラ?どこにいったのー?」

自分たちが進んでいた筈の方向から、パンジーが自分を探す声が聞こえた。フォーラは友人たちの方を振り返った後で、再び黒い犬のいる方に視線を戻したのだが、もう既にその場所に犬はいなくなっていた。周囲を歩く人々は、誰もあの犬に見向きもしなかった。みんなクリスマスムードで野良犬どころでは無いといった様子だ。しかしフォーラは妙にあの犬の瞳が頭から離れなかった。動物よりも強い意志を持った瞳だったような―――。

(何だか、凄く不思議な犬だったかもしれない)

「パンジー、ここよ」

フォーラは急いでみんなの元へ駆け寄って、再び雪の降るホグズミードの通りを進んで行ったのだった。
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