短編
□叶う、瞬間。
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ドラコは男子寮から誰もいない談話室へおりて来たところですぐに、ソファで彼の片思いのその人がただ一人そこで寝ているのに気付いた。
彼はフォーラに近寄り、顔を覗き込むようにその寝顔を見る−…
自分が恋い焦がれているその人が目の前にいると思うと、ドラコ自身、少しドキドキしているのがよくわかった。
「寝てるのか…?」
静かに聞いたが返事は無い。
(珍しいな、こんなとこで…
…それにしても、寝顔なんて久しぶりに見たな。
何て言うか、その
…かわいい、な。
まつげ長いし、肌は白いし…でも唇は紅いんだ。化粧してないんだろ?なのに、綺麗な色だな。………あ、)
あまりにかわいらしくて、魅入ってしまっていた。
ふと、自分とフォーラの距離が思っていたより近い事に気付き、すぐに少し距離をとった。そして慌ててフォーラが起きていないのを確認してホッと溜め息をつく。
(ああ、大丈夫みたいだ…。
それにしても。
ほんとに。…………すごく形の良い唇。
…僕がこの整った唇をどれだけ奪いたいと思ってるかなんて、君は知らないんだ。
今だって、僕はどれだけそれを我慢してるか…。寝ているうちなんて、君は動けやしないんだから。すぐに済むことだ。一瞬、触れるだけでもいい−…
…いや、…駄目、だろ。そんな寝込みを襲うような真似は。
第一そんなことをする勇気なんて持っているはずもないしそれに
告白する勇気すらないんだから)
(だから、せめて君が寝てる時くらいは…
君に聞かれてないなら、言っても構わない…だろ?)
……−僕は、いつも優しくしてくれる君が好きだ。何にでも真剣な君が好きだ。この間僕にだけ見せてくれた涙は忘れられない。怒っていても結局は僕を許してくれるところがかわいい。
君の全部が、僕は−……
ドラコには言いたいことが山のようにある。しかしそれを全て言う必要などなかった。
「…僕は、フォーラ、
君の事が、…好きだ。」
ぽつり、と呟くように空に投げた言葉は微かで、あまりに小さかった。
しかし何故かはっきりとそれを聞き取ることが出来たのは、ドラコの意志が本当に言葉の通りだったから。
(ああ、言ってしまった。)
しかしそうは思っても、結局は彼女に聞かれていないならそれは同じ事だとわかり、溜め息が出た。
妙に虚しい。
(ほら。泣きたくなってきた)
僕は、こんなに君が好きなのに。
「……私も。」
まさか目を閉じたままの彼女から返事が返ってくるとは思いもしなかったので、ドラコはドキリと身体を震わせた。
寝言かとも思ったが、やはりそれは違った。
ゆっくりと瞼を上げて身体を起こしたフォーラの瞳は、じっとドラコを捕らえて放さない。
そして彼女の頬は随分紅くなっている。
先程ドラコ自身の口から発した言葉をフォーラに聞かれていたのだと思うと、ドラコの顔もみるみるうちに真っ赤になっていった。
「ごめんなさい、起きてたの、ずっと…
身体を起こそうかと考えていたらドラコが来て、それで…、……!」
恥ずかしそうにドラコから視線を逸らした瞬間、フォーラの身体は温かな人の温もりに包まれていた。少しかかる重みはどこか心地良い。目の前には彼の首筋としなやかな肩、そして真横からちらりと光るプラチナブロンド。
「ドラコ、」
(私、抱きしめられてるんだ)
そうわかった途端フォーラの身体はいつになく熱くなり、その心音はドラコに余る事なく伝わる。
逆にドラコのそれも、フォーラが何もしなくとも速く速く鼓動し、彼女にその力強さを伝えていた。
「馬鹿、何で目を開けてなかったんだ…!」
もし君の瞳が見えていたら、あんなことは言わなかったのに。
……でも。
「ごめんなさい、でも、…返事、もう返してしまったから…
……私も好き、って」
(…そう、その通りだ。君は僕に…。…僕に。
好きだと、言ってくれた。)
「フォーラ、僕は……」
ドラコのフォーラを抱きしめる腕に力が入る。
今まで恋い焦がれた彼女が。
僕を好きだ、と。
ドラコは彼女から少し離れて顔が見えるようにしてから、言った。
「僕は、君がほしい。
側にいたいんだ」
自分が今どれだけ紅い顔をしていようが構わない。やっと、やっと言えたんだから。
「…うん、私もずっと、…ドラコと、こうなりたいって思ってた」
笑顔でそう答えた彼女。
あまりにも嬉しくて、近くて、ドキドキして。触れずにはいられない気持ち。
ドラコは歓喜の声の代わりに、ずっと触れたかったその唇に恐る恐るではあるが、キスをした。
それはただ、触れるだけで。
ホントは、もっと格好よくするつもりだったけれど。
(今の僕には、君に触れられた事だけで十分なんだ。)
唇を離すと、フォーラの顔は真っ赤だった。ドラコの顔も真っ赤だった。
二人はお互いをみて優しく笑った。
end