短編

□ただのキスじゃなくて
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「ドラコ」


深夜、人のいない談話室。
いや、正しくは「私たち以外に人がいない」。


暖炉の火がぱちぱち爆ぜ、それを私たちはただぼーっと同じソファに座って眺めている。

手を握りあって、ただ何を話すわけでもなく。




「なんだ?」

顔をゆっくりこちらに向けながらドラコが聞いた。隣にいる分顔が近い。
ドラコがこちらを向くとさっきよりさらに近くなった。


「…ううん、何でもない。呼びたかっただけ」


「…そう、か」


そう言うとドラコは私の髪を一撫でした。彼の目線は私の瞳から髪に移り、撫で終わるとゆっくりとまた私の瞳をじっと見つめた。


こうもお互いに近いと、雰囲気からして自然とキスに持ち込まれるのが当たり前で。


しばらくまた見つめ合って動かなかったが、そのうち私が彼の羽織っていたローブの端を きゅっと握り、目を閉じた。

私の心臓はだんだんドキドキが強くなって鼓動が速くなっていく。その分ドラコがキスしてくれるまでの間がたった数秒の事なのにひどく長く感じた。


それから少し間があって、ドラコの顔が近付いてくるのがわかった。


音もなく私の唇に彼の唇が重ねられ、舌を入れられるわけでもなく、触れるだけ。そのままの状態が少し、続く。




ドクンドクンドクンドクン



ああ、ドラコの心臓の音がここまで聞こえる。私よりずっと緊張しているのがわかる。
私の心臓の音も彼に聞こえているかもしれないけれど、ドラコのそれは私のそれ以上だと思う。

なんだかそんな彼がたまらなく可笑しくて、かわいく感じた。


端から見たら「ただ」恋人同志がキスしているだけに見えるかもしれない。

でも、そうじゃない。
毎回すごく緊張するし、一回するのもやっと。
しかもそれ全部が同じじゃなくて、全部違う。
たとえそれ全てがただ触れるだけだったとしても、違う。


「ただのキス」なんてものは私たちには無い。


全部が特別で、大事なものだってこと、きっとドラコもわかっているはずだから。





しばらくして唇を離したドラコの顔は、ほら、やっぱり。

真っ赤だった。



少し俯きがちに赤くなった顔でドラコは私をちら、と見る。




「…フォーラ、顔赤いぞ」


はは、と少し笑いながら言う彼に私も「心臓の音聞こえたよ」と言ってやれば、ドラコの顔はさらに赤くなったのだった。

end
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