短編
□歌声と僕
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「…〜♪」
ああ、今日も彼女の声が聞こえる。
この間の早朝、いつもより目が珍しく早く覚めた僕は、気分転換にホグワーツで2番目に高い塔へと向かった。
その時は何故だかわからなかったけれど、唯一そこにあるテラスを僕は知っていたから、多分朝の光を目一杯浴びに向かったんだと思う。
寮を抜け出してテラスへ続く階段を上って、上って、上った。
すると、目的地に着く手前でだんだん人の歌声が聞こえてくるのが判った。
僕は足をとめてテラスへのドアに手をかけたけど、その声を聞いていたら決して開けようとは思えなかったんだ。
「…♪…〜」
あまりにも、その歌声が綺麗すぎて。
ソプラノの利いた女性の声。
少し聞いていただけなのに、それだけでドキドキした。ずっと聞いていたいと思った。
「…♪、…。」
歌が止んだと同時に僕ははっとなってドアから手を離した。
近づいて来る。やばい、隠れないと…!
ギィー…
バタン、
タンタンタンタン…
間一髪、僕は階段の脇道へと滑り込んだ。
その間に歌声の主は扉を開け、階段を駆け降りて行ったようだ。もうそこには姿は無かった。
(……何故隠れたんだ?)
自分にそう問い質す。
尤もな理由だった。普通にドアを開けてしまえばよかったのに。何時もみたいに堂々としていればよかったのに。
…でも、そんな事出来ないほど僕の心臓はドキドキ言ってたんだ。しかたがないだろ。
その後僕はテラスへの扉を開け、さっきまでここに誰かがいたということを確認すると、元来た道を帰っていった。
…そんな日をここ最近ずっと繰り返している。なのに声の主はわからず仕舞いで、何の進歩もない。
でも、毎朝あの歌声が聞けるだけでも嬉しかった。