アズカバンの囚人

□medicine
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ハリーがクィディッチの試合中に箒から落下してから、二、三日が過ぎたある日のこと。

「っクシュ!!」

「おい、ジョージ、大丈夫か?」

「多分、熱ありそうだな……ハックシュン!」

フレッドが朝目覚めると、ジョージが盛大にくしゃみをしているではないか。ここ最近は雨が降る中、毎日の様にクィディッチの練習をしていたからだろう。フレッドの目の前のジョージの顔は火照っていて、いつになく目は虚ろにトロンとしていた。

「俺、マダム・ポンフリーのとこに行ってくる」

「朝飯は?もし食えるなら消化の良いものくらいは食った方がいいんじゃないか?」

「う〜ん」

鼻水をすすり上げながら唸ったジョージをフレッドは少々心配そうに見たが、それも束の間、フレッドは直ぐに何かを思い出したように「あっ!!」と声をあげたのだった。

「なんだよ、頭に響くなあ」

ジョージがぼやくのを尻目に、フレッドは急いで自分のベッドのサイドテーブルの引き出しを開け、中を引っ掻き回してようやく何かを取り出したと思うと、今度はそれをジョージの目の前に突き出した。

「ジョージ、これだぜこれ!」

フレッドが突き出した手に持っていたのは、ジョージにも見覚えのある紙袋だった。

「おい、これってまさか」

フレッドはニンマリとして紙袋の中身を取り出し、自分の手のひらにそれを乗せた。

「おいおい、どっちかが風邪ひいたら試そうって言ってたのを忘れたのか?」

フレッドの持つそれは、以前の夏休みにフォーラを助けてくれたお礼にと、彼女の父親がアーサー・ウィーズリーに手渡した新作の風邪薬だった。

「私が新しく作った薬です。熱、かぜ、嘔吐その他全般に効きます。従来の物より効きが早くて副作用は多少人が恋しくなるだけ」

フレッドは当時シェード・ファントムが発した言葉を思い出しながらそのように言った。フレッドがニヤッと笑って続けた。

「正直、人が恋しくなるって部分に一番興味があるけど、それがどんなものかはさておき、フォーラも親父の薬は大丈夫だって言ってたし。つまりこれを飲んどけば、一先ず風邪は大丈夫ってことさ」

「ああ……そうだったな。まあとりあえず、物は試しだ」

ジョージは少々気だるげに頷いて薬を受け取った。そして水差しの水をコップに入れると、薬と一緒に飲み込んだ。

「どうだ?」フレッドが恐る恐る尋ねた。しかしジョージは首を横に振った。

「まだ飲んだばっかりだぜ?」

しかし二人が朝食を摂りに大広間へ下りて行く頃には、ジョージのうつろな意識は次第に和らぎ始めていた。

「何だか身体が楽になってきた感があるな」

「で?俺のことでも恋しくなったか?」真面目ぶってそう聞いてきたフレッドに、ジョージは呆れ顔で笑った。

「いいや。もしそうなら今頃こんなに平然としてないだろうよ」

暫くして二人が大広間に着くと、ジョージの赤かった顔も随分といつもの顔色に戻っていた。意識も殆どはっきりしていた。

「この薬、効きが早いな。もう随分マシになっ―――クシュン!あ」

ジョージはくしゃみをした拍子に何かに気づき、その方向から暫く視線を逸らさなかった。フレッドが疑問に思って相方の視線を追いかけると、そこにはスリザリンの席に座って朝食を摂るフォーラの姿があった。
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