アズカバンの囚人

□notice
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フォーラの怪我が治って以来、ドラコの機嫌は斜め下向きだった。ドラコからすれば原因はフォーラにあったが、彼自身、自分の考えが分からなくなっているせいでもあった。近頃妙に彼女が頭の片隅に浮かぶのだ。笑った顔、怒った顔、困った顔……それでも特に最近一番よく思い出されたのは、この間のルーピンとの別れ際、彼女が見せた寂しそうな表情だった。

(どうしてあの時のフォーラばかり。思い出したくないっていうのに。フォーラがあいつと話している時、まさかあんな顔になるなんて思いもしなかったし、その後の彼女は僕の話なんて聞いてすらいなかったじゃないか。
きっとそれは……本当に予想の域を出ないが……フォーラは、ルーピンのことを)

そのように考えてみると、ドラコはどういうわけかものすごく虚しい気持ちになった。

(フォーラはなんだってあんなボロボロの服を着た変な奴の事が気になるんだ。いや、まだ彼女が奴を好きだと決まったわけじゃないが……。
そもそも、どうして僕がこんなにもフォーラのことでイライラしているのかすら疑問だ。彼女とはただの幼馴染じゃないか。だから彼女が何をしようと、別に放って置いてやればいいだけの話の筈だ)

「そう、そうだ。僕には何も関係ないじゃないか」

さてその後、マグルの女性がホグワーツからそう遠くない場所でシリウス・ブラックを目撃した、というニュースを日刊預言者新聞が報じた頃。ついに三年生向けの「闇の魔術に対する防衛術」の授業が始まった。
ルーピンの授業だと思うとドラコは思わず気が立った。そして彼は先日のフォーラとルーピンが話していた時のことを、ふとした瞬間に思い出してはモヤモヤと考えを巡らせることを繰り返していた。そんなドラコについて、フォーラは最近彼の態度が幾らか冷たいような気がしていた。彼がそのようになっているのは、やはり彼の心に余裕があまり無いのが原因だった。それについて二人の友人たち―――パンジーらは何となくドラコがフォーラを避けている雰囲気こそ察したものの、彼女らにもその理由は全く分からないようだった。

さて、その日の闇の魔術に対する防衛術では、フォーラ含むスリザリンの生徒が教科書や羽ペンを机の上に準備していたが、ルーピンは教室に入ってくるなり曖昧に微笑んでこう言った。

「やあ、みんな。教科書はカバンに戻してもらおうかな。他のクラスでもやった通り、今日は実地練習をすることにしよう。杖だけあればいいよ」

教科書をしまいながら、ほとんどのスリザリン生は怪訝そうにルーピンを見た。生徒らは彼のみすぼらしさを鼻にかけていたし、今までのこの授業の先生から実地練習など受けたことがなかったことも理由の一つだ。
そんな中、フォーラはルーピンのことを他の生徒とは違った眼差しで見つめていた。するとルーピンは彼女に気づき、ニコリと微笑んだではないか。これにはフォーラの頬が勝手に薄赤く染まった。そして彼女は少し緊張していたものの、ぎこちないなりに出来うる限りの笑顔を返したのだった。
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