アズカバンの囚人

□new passenger
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それからフォーラはしばらく廊下をドラコに支えられながら歩いていたが、途中からようやく一人でしっかり立って歩けるようになった。

「ごめんなさい、まだ学校にも着いてないのに、迷惑をかけてしまって……。」

「いや、いいんだ。とりあえずコンパートメントに戻って休んだ方がいい」

結局パンジーたちに逢えないまま、二人は自分達の居たコンパートメントまで戻ってきた。フォーラの頭はまだ少し痛みを感じていた。

(何か、忘れている気がするのよね……)

しかしそれが何なのか、フォーラ自身全く思い出すことができなかった。彼女は一先ずコンパートメントに入るとドラコの隣に座らされた。そして頭痛がマシになることを期待して、彼女は列車の壁に頭をもたせ掛けると眠りについたのだった。

さて、それから少し経った頃、手持ち無沙汰となったドラコは、先程からチラチラと隣のフォーラのことを心配し横目で確認していた。そして彼女の呼吸の様子から彼女が完全に眠りについたと分かると、彼は恐る恐るその寝顔を覗き込んだのだった。

(よかった。表情からしてもう辛くはなさそうだ。……それにしても、フォーラの寝顔をちゃんと見たのは何時ぶりだろう。なんだか、前見たときより随分……その)

ドラコはフォーラが寝ているのをいいことに、まじまじと彼女を見つめていた。長い睫毛に透き通った肌、そして艶やかな唇。ドラコは気が付かないうちにもっと彼女をよく見ようと、ゆっくり顔を近づけていた。

「!?」

ドラコがふと我に帰った時、彼はあまりにも自分たちの顔が近い場所にあることに気が付いた。そしてそれと同時に彼は顔を赤らめ、直ぐさまフォーラから離れたのだった。

(ぼ、僕は何をしてるんだまったく!)

少し赤くなった顔でもう一度フォーラをちらと見やれば、彼女はまだそのままの姿で眠り続けていた。ドラコは安堵のため息を零した―――するとその時、列車がガクンと揺れた。その拍子にフォーラの頭が、もたれかけていた壁から離れたではないか。
ドラコは彼女の不安定になった頭をなんとか支えようと手を伸ばしたのだが、次の瞬間に彼女の頭は自然とドラコの肩に乗っかっていた。

「!?」

ドラコはたった今起こった状況を理解するのに、一瞬だけ時間が必要だった。そして直ぐにフォーラが今のことで起き出さなかったかと心配し、彼女の顔を見た———彼女は相変わらず安らかな表情で眠っていたものだから、ドラコは再び安堵した。
しかしそれも束の間、ドラコは先程と違い、フォーラが離れようにも離れられない程の至近距離にいることに、何故だか落ち着かなくなっていった。とはいえ身動きが取れないのに慌てては、彼女を起こしてしまうかもしれない。そう思うと彼は自然と冷静さを取り戻していったのだった。

汽車がさらに北へ進むと雨も激しさを増した。窓の外は墨色に変わり、やがて通路と荷物棚にポッとランプが点った。汽車はガタゴト揺れ、雨は激しく窓を打ち、風邪が唸りをあげたところでようやくフォーラは目覚めた。

「フォーラ、大丈夫か?気分はどうだ?」

隣からかけられた声にあまりはっきりしない頭で彼女は頷いた。それから彼女は窓の外を見た。もう辺りは暗く、彼女は自分が夕方中寝ていた事にようやく気が付いたのだった。
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