アズカバンの囚人

□family
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さて、その翌日、まだ早朝だというのに夏の太陽はもう既に東の空に顔を出していた。空は昨日の嵐がまるで嘘であるかのように晴れ渡り、地面は雨上がりの匂いがした。そんな気持ちの良い空気に包まれて、フォーラは朝早く起き出していた。彼女は倒れた時に着ていた服をモリーに洗ってもらっていたこともあり、いそいそとそれに着替えた。そしてまだ隣で寝ているジニーを起こさないように部屋を出ると、そろそろと長い階段を下りて「隠れ穴」の玄関先の芝生に立ち、伸びをした。この時間は、まだおそらく誰も起き出していないだろう。

(このあたりは、お爺様とお婆様の屋敷から近いのかしら)

フォーラは西に広がる森を見渡した。何となくあちらに屋敷があるような気がする。彼女はそのようなことを考えながら隠れ穴を振り返った。アンバランスな建造物が五階以上はあるだろう高さまで、伸びるようにしてそびえ立っている。

(私のお家と全然雰囲気が違って、とってもユニークね。だけど同じところもある。どちらのお家も、とっても温かいわ)

フォーラが隠れ穴の最上階に視線を向けた時、ちょうどその最上階の部屋の窓からこちらを見ている人物と目が合った。

「―――あっ」ロンはまさかこんな早朝にフォーラが下にいて、目が合うとは思ってもいなかった。

(ウ、ワ、ええと、その)

ロンは突然のことにどうすればいいか分からなかった。それだから彼は一先ず彼女に手を振ることにした。すると彼女もこの状況に少々驚いているようで、ぽかんとした顔でこちらに手を振り返していた。それを見てロンはすぐさま窓から離れ、混乱しっぱなしの頭を整理した。

(ええと、だから、ただ見ていただけなんだ。偶然外を見たら庭にファントムがいて、それで―――とにかく、庭に下りた方がいいかもしれない)

ロンは超特急で身なりを整えると部屋を飛び出し、寝ている人を起こさないようにしながら階段を素早く静かに一番下まで下りた。そして彼がドキドキしながら玄関を出ると、そこにはまだ隠れ穴を見つめるフォーラの姿があった。彼女はロンがドアを開ける音に気づき、彼に視線を向けた。先に挨拶したのはロンだった。

「お、おはよう」

「ええ、おはよう……。」挨拶を返すと、フォーラは再び隠れ穴に視線を戻して言葉を続けた。「このお家、とても素敵ね。」

「そうかな―――えーと、ありがとう」ロンが頭をかきながら、照れを隠すようにして言った。

すると、フォーラが不意に視線をロンに向けた。彼女の表情には何か躊躇いの色が伺えたのだが、それを押しのけるようにして彼女は話しだした。

「……あのね、ロナルド。昨日、私を見つけてくれて……本当に、本当にありがとう。突然のことだったし、まだ貴方にきちんとお礼を言えていなかったから……。」
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