アズカバンの囚人

□black cat
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夏休みも後残り一週間に差し掛かった頃。
フォーラはこの夏休みにパンジー、ルニーと共にダイアゴン横丁に出かけたこと、偶然にもドラコともそこで出会ったことや、もうとっくに学校の宿題を終わらせてしまったことなどを思い返していた。

フォーラは今、両親と共に父方の実家に遊びに来ていた。そこは森に囲まれており、その森の外には魔法で一線を画すようにしてマグルの集落があった。フォーラの祖父母の屋敷は、近隣のどの家とも比べものにならない程に大きく広かった。

フォーラはこの屋敷があまり好きではなかった。というかむしろ、彼女は祖父母の純血主義に恐れをなしていた。父母はそんな思想を持たないのに、なぜ祖父母はそうなのだろうと何度も思ったものだ。とはいえ彼女は祖父母のことが嫌いというわけではなかった。むしろ好いている筈なのだが、どうしてもその手の話題になると耳を塞ぎたくなってしまうのを避けられなかった。

この日、フォーラの父親のシェードは、ひょんなことから彼の両親と純血に対する思想観念の違いについて激しい口論をしていた。それを聞いていたフォーラは、彼らの喧嘩がエスカレートしていくのに耐えることができなかった。それだから彼女は思わず屋敷から知らず知らずのうちに飛び出してしまったのだ。
大虐殺犯シリウス・ブラックがアズカバンから脱走したというニュースが魔法界全体に広がっており、子供一人で外に出るというのは危険極まりない状況だった。しかしフォーラはそのことを考える余裕などなかった。それに偶然にも彼女の両親は、彼女が飛び出したことに少しも気づかなかったのだった。

フォーラは森を抜け、マグルの集落に着いた。空は分厚い雲で覆われ、雨が降りだしそうだった。

(屋敷を出た時は、こんなに雲っていなかったのに)

フォーラは外に飛び出してしまったこともあり、彼らの喧嘩のほとぼりが冷めるまで、村を散策するつもりだった。しかし今にも降り出しそうな天気に、本当は嫌だが素直に屋敷に戻った方が良さそうだと思った。
ちょうどその時、突然雨粒が一粒フォーラの頭の上にポタッと落ちた。あまりの冷たさにフォーラは身をびくりと跳ねさせた。するとそれと同時に、急に身体が身に覚えのある変化をしだした。彼女は去年、自身が小さな黒い毛むくじゃらの動物―――そう、言い表すなら黒猫になってしまったかのような感覚を、あの時はほんの一瞬体感していた。
以前は余りに急な出来事にわけがわからなかったが、今回もそうだ。視線が地面近くまで下がって、地にはいつの間にか四本足で立っていた。視界に入る自分の体は真っ黒な毛で覆われている。彼女は自分の身体を見回した後、恐る恐る片手を頭にのばした―――すると、ある筈の場所に耳がなく、ない筈の場所に別の形の耳があることを触って確認したのだった。

(なんで、私、―――猫!?前にもこんなことがあったけれど……元に戻れるかもわからない!)

慌てふためいた彼女は、急いで今来た道を引き返そうとした。
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