不死鳥の騎士団
□The note
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「ちょっと!気安く触らないで。それにフォーラを困らせないでよ。
そういう強引な人とは私達は出かけません。
それじゃあね」
そう言って彼女達がその場を離れようとすると、男子生徒の一人が杖を振ってルニーを"呼び寄せ"して受け止めた。
「つれないなあ。ほら、俺たちそんなに悪い男じゃないんだからさ。お願いだよ」
「この!しつこい男は嫌ーーー」
ルニーがその場から逃げようとポケットの杖に手を伸ばしたが、男子生徒はその手を掴んで彼女をぐいと振り向かせた。その時、誰かがルニーと男子生徒の間に割って押し入ってきた。男子生徒が驚いてルニーから離れると、その人は彼女を庇うように杖を構えていた。彼はルニーとほぼ同じくらいの背丈で、あまり顔なじみのない生徒だった。
「この人に触るな!」
そう言って彼は呪文を唱えたが、杖が震えて術が上手くいかなかった。しかし彼のおかげで出来た一瞬の隙にフォーラは杖を取り出し、男子生徒達の足元の芝生を蔦(つた)に変身させて彼等に絡みつかせた。
ルニーとフォーラはその場から走り去ろうとしたが、助けに入った彼が目の前の蔦に驚いて固まってしまっていることに気がついた。
「何してるの、こっち!」
ルニーが急いで彼の手を掴むと、三人でその場から一目散に逃げ出したのだった。
「はあ、はあ、ここまで来れば大丈夫でしょう。フォーラ、さっきはありがとう。
あなたも大丈夫だった?」
ルニーの隣で息を切らしていた彼が、彼女の一声でパッと顔を上げた。彼の顔色は途端に胸元の青いネクタイと正反対の赤に染まった。
「は、はい。僕は何とも。
その……マッケンジーさんは大丈夫でしたか?」
ルニーは彼が自分の名を知っていたことに少し驚いたものの、彼に微笑んでお礼を言った。
「ええ、勿論!あなたが助けに入ってくれて助かったわ。ありがとう」
「!い、いえ。僕は何も出来なくて……。
あ!僕、スチュワート・アッカリーと言います。レイブンクローの三年生です」
「スチュワートね。よろしく。
でも、どうして私達のこと助けてくれたの?私達はじめましてよね」
ルニーはフォーラと顔を見交わしたあとでスチュワートに視線を戻した。彼はルニーの視線が自分に向けられていることに心底落ち着かない様子だった。
「じっ実は僕、前から先輩達のことは知っていたんです。
僕が一年生の時にファントムさんが学年末に大広間で猫に変身してから、どうやってアニメーガスになったのかとっても興味があって、よく目で追いかけてたんです。
そしたら……いつもファントムさんの側にいるお友達の中にマッケンジーさんがいて。
それで、気がついたらいつの間にか、その……。見かける度にあなたのこと、カッコいいなって思ってたんです」
スチュワートはどぎまぎした様子で続けた。
「でもお話しする機会も無くて。そうしたら中庭で先輩達が困っていたから、助けなきゃって……それだけなんです。
それなのに結局何も出来なくて、ファントムさんの術の方がよっぽど上手だったし……ごめんなさい」
俯いて落ち込む様子の彼を見て、ルニーは驚いたような困った様子で再びフォーラに視線を送った。フォーラはルニーに微笑み返しただけだったが、ルニーにはそれで十分だった。
「ほら、顔を上げて」
ルニーが促すと、彼女と同じ背丈の彼は不安げに視線を交わした。
「勇気を出して来てくれて、とっても勇敢だったわよ。本当にありがとう。
あんな風に助けられたのって初めてで、ちょっとドキドキしちゃったわ」
「え……あ!いえ、そんな。僕は何も」
「それから、折角だしよかったら私とお友達になってくれない?私のどんなところに興味を持ってくれたのか知りたいし、それに、私もあなたに興味があるわ。どうかしら?」
スチュワートはその言葉にパッと顔を明るくした。その時の笑顔があまりにも可愛くて、フォーラもルニーも思わず癒されてしまった。