不死鳥の騎士団
□coward
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「そうなの?
きっと知らない人ばかりで、緊張してしまいそう・・・。」
その言葉に皆ニヤッと笑った。
「知らない人ばかりとは限らないわ」
ジニーの言葉にフォーラはきょとんとしていたが、彼女は皆がきっとその時のお楽しみに言葉を控えているのだろうと気づいた。
「だれか、知っている人がいるのね?」
ジョージが答えた。
「ああ。あとでのお楽しみさ」
「ふふ、やっぱり。楽しみだわ。
あっ、そういえば、たしか家主さんも騎士団にいるって聞いた気がして。まだご挨拶も何もしていないから、食事の時にお会いできるといいのだけれど、」
それを聞くや否や、皆少し苦笑いしながら互いに顔を見合わせた。
ハーマイオニーがフォーラを伺うように言った。
「フォーラ?多分ご両親から聞いていないことはわかったわ。
あのね、ここの家主には確かにあとで会えるの。だけど、多分、ちょっとびっくりしちゃうと思うの」
「どんな感じの方なの?」
ハーマイオニーは悩ましげに言葉を選びながら言った。
「えーと、大きくて、黒くて・・・まあとにかく、人相はあまり良くないかもしれないわ。
でも私たちの味方なの。だから落ち着いて聞いてね、彼は」
その時、部屋の扉からコンコンと鈍い音が二回響いた。その場にいた皆が飛び上がった。ガチャリと音がしてそちらを見やると、モリーが顔を覗かせた。扉の奥の階下から微かに人々の囁き合う声が聞こえてきた。
「皆、会議が終わりましたよ。もう少ししたらお夕食の準備を始めますからね。何人かお手伝いに来てちょうだいな。
ああ、フォーラはゆっくりくつろいで構わないのよ。今日はあなたの歓迎会も兼ねてますからね」
「いっいいえ、あの、私も行きます!」
「気を使わなくてもいいのよ、ありがとう。それじゃあ下の人混みが落ち着いた頃にいらっしゃいな。
そうだわ、伝え忘れていたけど、ホールでは声を低くしてね。面倒なことになってしまうから」
モリーが扉を閉めようとした時だった。誰かが玄関の方で何かを倒した鈍い音が響き渡ってきた。
そのすぐ後に耳を劈くような、血が凍る恐ろしい叫び声が響き渡った。フォーラはびっくりしてその場に固まってしまったが、他の皆はモリーが急いで下の階に駆けていくのをやれやれと慣れた様子で見送った。
部屋のドアが閉められてもその向こうから老女の叫び声ははっきり聞こえた。
『穢らわしい!クズども!塵芥の輩!雑種、異形、出来損ないども。ここから立ち去れ!我が先祖の館を、よくも汚してくれたなーーー』
そして階下から別の怒鳴り声が老女の叫びに押し殺されながらも微かに聞こえ、やがて静寂が訪れた。
フォーラはまだ固まったままだったが、ジョージが彼女の目の前で手をひらひらと動かして意識をこちらに引き戻した。
「あ・・・、えっと、今のは一体・・」
「ここの家主の母親の肖像画さ。純血主義の怨念みたいな絵なんだ。
ホールで物音をたてるとあんな感じになるから気をつけろ」
一行は静かに階下に降りた。部屋の目の前の格子から向こうを見下ろせば、擦り切れたカーペットが敷かれたホールが目に入った。そして階段を降りて二つの踊り場を過ぎ、屋敷しもべ妖精のしなびた首の飾り板が並ぶ壁の前を通り過ぎた。
扉という扉の取っ手は全て蛇を象っていたし、装飾品は正直言って趣味が悪かった。フォーラは通路を通り過ぎる度、ここの家主にうまく挨拶できる自信がなくなっていった。
皆がホールの一番奥にある食堂兼騎士団の会議室へ入る頃には、騎士団のメンバーはとっくに玄関から出て行ってしまっていた。フォーラは扉を通る際、一度ホールを振り返った。既に両親の姿がないことに安堵しつつも罪悪感が押し寄せて、とても複雑な気持ちにさせた。