アズカバンの囚人
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ドラコはきっとそんな二人のやり取りに気が付いたに違いない。彼は先ほどからイライラしていたのだが、その様子が更に顕著に見て取れた。パンジーが心配そうに話しかけたが、彼は首を横に振るだけだった。
「何でも無いと言ってるだろう」
「でも、ドラコ、なんだか辛そうなんだもの」
「そんなことない!」
ドラコはそう言い放つと、ルーピンと教室を出て行く生徒たちに続き、足早にその場を離れたのだった。
生徒たちは唐突な教室外での授業に、次第に興味が湧いて来たようで、少々期待に胸を膨らませながらルーピンに続いて廊下を進んだ。途中、ポルターガイストのピープズがルーピンの邪魔をして来たが、彼は瞬く間にピープズを魔法で追い払ってしまったので、彼を見る生徒たちの目は瞬く間に尊敬の眼差しへと変わっていったのだった。もちろんドラコを除いてなのは言うまでもない。
ルーピンはみんなを引き連れて二つ目の廊下を渡り、職員室のドアの真ん前で立ち止まった。
職員室は板壁がはられた奥の深い部屋で、ちぐはぐな古い椅子がたくさん置いてあった。先生は誰もいない。
ルーピンは生徒たちに部屋の奥に来るよう合図した。そして生徒らが中に揃うと、ルーピンは彼のものと思しき机の下から戸棚を引っ張り出して来て、皆の目の前の床に置いた。戸棚はワナワナと震えていた。
「心配しなくていい」
ルーピンはそう言ったが、殆どの生徒は『これは心配するべきことではないか』と思った。ルーピンが続けた。
「まね妖怪のボガートは暗くて狭いところを好む。洋箪笥やベッドの隙間―――。私は一度、大きな柱時計の中に引っかかっているやつに出会ったことがある。ここにいるのは一昨日の午後にそこの洋箪笥に入り込んだもので、授業用にとっておいたんだ」
加えて、ルーピンはその他の特徴についても説明した。ボガートは目の前の人間の一番怖いものに変身すること、大勢の人がいると混乱してしまうこと、そして退治方法についてだった。
「ボガートを退散させる呪文は簡単だ。しかし精神力が必要だ。こいつを本当にやっつけるのは、笑いなんだ。君たちはこいつに、君たちが滑稽だと思える姿をとらせる必要がある。
初めは杖なしで練習しよう。私に続いて言ってごらん……リディクラス!ばかばかしい!」
「リディクラス!ばかばかしい!」全員が一斉に唱えた。
「そう、とっても上手だ。でもここまでは簡単なんだけどね。それじゃあ……そうだな、フォーラ。前においで」
急に名前を呼ばれてフォーラはどきりとした。彼女は恥ずかしそうにルーピンの方へ向かい、小さな戸棚の目の前に立った。