アズカバンの囚人
□new passenger
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(私、結構な時間寝ていたみたい……)
「ずっと肩を貸してくれていたのね。疲れたでしょう?ありがとう……。私が寝ている間に、誰か来たりした?」
フォーラがそのように尋ねるとドラコは首を横に振った。しかし実際のところ、彼はパンジーが二人を捜して自分たちから少し離れたコンパートメント前の廊下をうろついていたのを中から発見していた。
そしてドラコは、気づけば咄嗟に廊下側の窓のブラインドを下ろし、パンジーに自分たちが見つからないようにしてしまっていた。彼はそのことをフォーラに黙っておこうと思った。
(あれは腕が勝手に。それにフォーラが寝ているのにパーキンソンに見つかったら、彼女を起こしてしまうことになったし―――)
「あら……なんだか汽車が」
フォーラはふと汽車が速度を落としはじめていることに気付いた。時間的にはまだホグワーツに着く筈がない。そのためドラコは何が起こったか確認しようと、廊下からの視界を遮っていたブラインドを上げた。
「!ドラコ!やっと見つけたわ〜!」
すると、ちょうど扉の向こう側で廊下を歩いていたパンジーがドラコに気付き、こちらに手を振った。ドラコは少々驚きながらもドアを開けると彼女に尋ねた。
「まだ汽車の着く時間じゃないよな」
「ええ、多分そうよ。でも速度が随分落ちて―――ああ、フォーラ!久しぶりね!一番前の車両のコンパートメントにルニーたちもいるのよ。こっちの方が広いし、みんなを呼んでくるわね!」
そう言ってパンジーは足速に廊下を歩いて行ってしまった。ドラコは嵐のように去って行った彼女を見て、拍子抜けした様子でドアを閉めた。
するとそれと同時に、今や列車はガクンという音を起てて完全に止まってしまった。
「ねえ、ドラコ。止まってしまったけど、大丈夫かしら―――……あら?明かりが……きゃっ!!」
突如、なんの前触れもなく列車中の明かりが一斉に消え、辺りが真っ暗闇になった。
フォーラは真っ暗闇の中で何が起こっているのか殆ど理解できていなかった。ただ分かったのは、暗闇になった途端に何かがこちらにしがみついて来たということだ。加えてさっきの自分の短い悲鳴は、それに驚いたために出た声でもあった。
(……あれ、……この香り)
「ドラコ?」
少しの間、フォーラにしがみついていたドラコはハッとして顔を上げた。互いの顔はなんとなくしか分からなかったが、ドラコは自分の顔とフォーラの顔が目の前の近すぎる距離にあるということに気が付いた。