短編小説

□花霞
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僕がキミに出会ったのは桜の花びらが雪のように舞い散る日だった。






花粉症の僕が、こんな花霞でときどき風が吹く日に出かけるのは本当に酔狂なのだけれど、それでも、満開に咲いた桜を見たくて、ひとりで出かけてきた。

数え切れないほどの満開の桜が小道の両側に並ぶ場所はとても綺麗だった。

「来てよかった…。こんなところを彼女と歩いたら最高だなぁ。…いないけど。」

友達や仲間と桜の下で花見と称して宴会をするのもいいけれど、こうして本当に桜だけを眺めて歩くのもいいものだ、などと、少々、年寄りくさいことかなと思いながら歩みを進めた。

ふと前を見ると、花霞の中に溶け込むような人影を見た。

目の錯覚か、それとも本当に誰か人が立っているのか分からなかった。

少しずつ近づくにつれて、ようやく人が立っていると確信が持てた。

その人は立ち姿がとても綺麗な人だった。

ときどき風が吹き、花吹雪のような中にたたずみ、頭上の桜を眩しそうに見上げていた。

チラッと見えた横顔。

僕は一瞬で好きになった。

まさに一目惚れだった。

本当にそんなことがあるんだって思った。

そして気が付くと、その場に立ち止まり、ぼんやりとその人を眺めていた。
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